「デオドラントされてなかった。」蛇の道 蛇足軒妖瀬布さんの映画レビュー(感想・評価)
デオドラントされてなかった。
本作はデオドラントされていなかった。
どういうことか?
楽しみにしていたのは、リメイクといっても、
旧作のような、
作品全体の血、汗、肉の匂いを脱臭したような、
無機質な芝居で展開されるデオドラントワールド、
どう脱臭(デオドラント)して黒沢ワールドを表現するのだろう、
だった。
どういう意味か?
私は黒沢監督と2作品でご一緒した。
その経験から言えるのは、
黒沢監督のアイデアが変わっていて面白いという事だ。
何が変わっていて、面白いのか。
シナリオ、演出、撮影、ロケーション、
美術、小道具、衣装、劇用車(劇中に出てくる登場人物が乗車している車)といったあらゆる要素を駆使して、
観客の予測を裏切り、ロジックを脱臼させる。
骨折ではなく、破壊でもなく、脱臼だ。
観客はその変化に気づかないようだが、
身体は認識する、あれ?変だなこの人・・・
この空間・・・いずれ脳も認知する・・・だから脱臼・・・
結果として、怖さは脳ではなく、身体全体から感じ取られる。
すぐに席を立ちたくなる・・・。
変わっているのは、
非論理的(illogical)でも論理外(nonlogical)でもない。
「論」(シナリオ、演出、撮影等)を駆使して、
理(道理、真理、ことわり、常識、あたりまえ)を微妙にずらす。
観客は普通に観ているつもりが、
あり得ない病院、
あり得ない家、
いつの間にかあり得ない空間に引き込まれ、
脳がそれに気づいた瞬間に恐怖を感じる。
ロケハンも楽しかった。
あり得ない場所での撮影、
あり得ない芝居の動きや、
フォーカス、構図が美しくカメラに収められていく。
特に延々の長回しは、
やっぱり美しい。
ところが今作は、
あり得る自宅、
あり得る病院、
あり得る芝居、
血が通っている、
デオドラントされていない。
驚いた。
汗、血、涙の匂いが漂い、脱臼の心配不要のサスペンス作品だった。
【蛇足】
なぜデオドラントしなかったか?を推測。
〇キャストの芝居の力。
キャストのシークエンスを魅せ切る演技力はあるが、
黒沢ワールドに合っているかどうかは好みが分かれるだろう。
〇「大きい方なんだよー」
怖いけど微妙に滑稽・・・
ブラックリアリズム、
このニュアンス、日本人でも感じ取り方は、
人それぞれ違うだろう。
〇コンセプトを取り巻く、時代と国民性の背景。
当時の日本を舞台に、
この題材で、
恐怖と少しの滑稽さをを絶妙に調律していた、
それこそが黒沢ワールド。
しかし、
今作ではフランスを舞台に、
この題材の調律を考えると、
正面から問題と向き合う感も出さざるをえなかった・・・
◯今や、世界的スター、
丹治匠を旧作同様キャスティングしてほしいかった。
以上。
しらんけどでしたー