劇場公開日 2024年6月14日

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「デオドラントされてなかった。」蛇の道 蛇足軒妖瀬布さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0デオドラントされてなかった。

2024年6月17日
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本作はデオドラントされていなかった。

どういうことか?

楽しみにしていたのは、リメイクといっても、

旧作のような、
作品全体の血、汗、肉の匂いを脱臭したような、
無機質な芝居で展開されるデオドラントワールド、

どう脱臭(デオドラント)して黒沢ワールドを表現するのだろう、
だった。

どういう意味か?

私は黒沢監督と2作品でご一緒した。

その経験から言えるのは、
黒沢監督のアイデアが変わっていて面白いという事だ。

何が変わっていて、面白いのか。

シナリオ、演出、撮影、ロケーション、
美術、小道具、衣装、劇用車(劇中に出てくる登場人物が乗車している車)といったあらゆる要素を駆使して、

観客の予測を裏切り、ロジックを脱臼させる。

骨折ではなく、破壊でもなく、脱臼だ。

観客はその変化に気づかないようだが、
身体は認識する、あれ?変だなこの人・・・
この空間・・・いずれ脳も認知する・・・だから脱臼・・・

結果として、怖さは脳ではなく、身体全体から感じ取られる。
すぐに席を立ちたくなる・・・。

変わっているのは、

非論理的(illogical)でも論理外(nonlogical)でもない。

「論」(シナリオ、演出、撮影等)を駆使して、

理(道理、真理、ことわり、常識、あたりまえ)を微妙にずらす。

観客は普通に観ているつもりが、

あり得ない病院、

あり得ない家、

いつの間にかあり得ない空間に引き込まれ、

脳がそれに気づいた瞬間に恐怖を感じる。

ロケハンも楽しかった。

あり得ない場所での撮影、

あり得ない芝居の動きや、
フォーカス、構図が美しくカメラに収められていく。

特に延々の長回しは、
やっぱり美しい。

ところが今作は、

あり得る自宅、

あり得る病院、

あり得る芝居、

血が通っている、
デオドラントされていない。

驚いた。

汗、血、涙の匂いが漂い、脱臼の心配不要のサスペンス作品だった。

【蛇足】
なぜデオドラントしなかったか?を推測。

〇キャストの芝居の力。

キャストのシークエンスを魅せ切る演技力はあるが、
黒沢ワールドに合っているかどうかは好みが分かれるだろう。

〇「大きい方なんだよー」
怖いけど微妙に滑稽・・・
ブラックリアリズム、
このニュアンス、日本人でも感じ取り方は、
人それぞれ違うだろう。

〇コンセプトを取り巻く、時代と国民性の背景。

当時の日本を舞台に、
この題材で、
恐怖と少しの滑稽さをを絶妙に調律していた、
それこそが黒沢ワールド。

しかし、

今作ではフランスを舞台に、
この題材の調律を考えると、
正面から問題と向き合う感も出さざるをえなかった・・・

◯今や、世界的スター、
丹治匠を旧作同様キャスティングしてほしいかった。

以上。

しらんけどでしたー

蛇足軒妖瀬布