「【”獲物を狙う蛇の様な目をした女が歩む終わりなき道。”柴咲コウ演じる女の能面の如き無表情と、空虚だが時折見せる怒りと哀しみの目が印象的な作品。黒沢清監督作品に共通する”乾性”を感じる作品でもある。】」蛇の道 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”獲物を狙う蛇の様な目をした女が歩む終わりなき道。”柴咲コウ演じる女の能面の如き無表情と、空虚だが時折見せる怒りと哀しみの目が印象的な作品。黒沢清監督作品に共通する”乾性”を感じる作品でもある。】
ー 黒沢清監督はカンヌ映画祭で屡々高く評価される方だが、日本国内での評価は総じて海外よりも高くない珍しいタイプの方である。
私が、この監督作品を観て時折思うのは、“乾性”の漂う作品であり、且つ作家性が高く、エンタメ要素が薄いという事である。
邦画の多くは私の勝手な見解であるが、”湿性”が根本にあると思う。
”泣ける”と言うワードに象徴される”湿性”である。人の温もりと言い換えた方が分かり易いかも知れない。
だが、黒沢清監督作品は、今作でも”湿性”は殆ど漂わない・・。ー
■娘を殺された男アルベール(ダミアン・ボナール)が、獲物を狙う蛇の様な目をした女サヨコ(柴咲コウ)に操られるが如く、男の娘を殺した事に関与したと思われるミナール財団に所属していた、ラヴァル(マチュー・アマルリック)、ゲラン(グレゴワール・コラン)、クリスチャンを次々に誘拐、拉致監禁していく過程でも、アルベールが情緒不安定な中、サヨコは無表情に、だが無慈悲に男達をアルベールを使って葬って行く。
・前半は惨いシーンが多いにも関わらず、淡々と過ぎていく。
サヨコは捕獲した男達を鎖で手足を拘束し、トイレにも行かせず、目の前までわざわざトレーに食事を乗せて運んでくるが、トレーの中身を男達の手が届きそうで届かないギリギリのところで落とし、男達の”人間の尊厳を奪うのか!”と言う声にも、冷徹な目で男達を見下し、歩み去るのである。
・このシーンの後、過去、心療内科医のサヨコとアルベールが病院内で出会うシーンが挟まれる。が、感の良い人はこのシーンで、後半の予想が出来るのではないかな。
・中盤から後半にかけて、徐々に真相が明らかになって行く展開はスリリングであるし、ミステリアスである。
心療内科であるサヨコの元に通うヨシムラ(西島秀俊)の診察を淡々と行い、何故か日本に住む夫と思しき男(青木崇高)とは、スカイプで連絡が来ても画面の前には立たず、会話もしない。
■再後半、真実が明らかになって行くシーンは、もはやホラーである。
アルベールが繰り返し拉致した男達に娘の生前の姿を映した映像を見せながら言っていた自分の娘が遺骸となって発見された時の状況を読み上げる言葉が、いつの間にかサヨコの声に変わって行き、多数並べられた液晶テレビに映っていた人物。
そして、サヨコが冷徹な目でアルベールを見て言い放った言葉”貴方が一番嫌い。”も強烈であり、その言葉を聞いた瞬間に観る側は、何故にサヨコがアルベールに近づき、彼の”復讐”に協力したのか、彼女の表情が能面の如き無表情であり、空虚だが時折見せる怒りと哀しみの目をしているかが、分かるのである。
<今作は、ラストの夫と思しき男とスカイプで会話するサヨコが、蛇のような目で瞬き一つせずに”貴方が娘を売ったのね。”と言う言葉と冷徹な表情にも戦慄した、ホラーの如き作品である。>