「【不穏感が横溢する作品。(褒めてます。)作家シャーリーと夫の歪んだ悪魔的な人間性に呑み込まれつつ、夫の為に彼らと嫌々同居していた若妻がシャーリーにより強かに自立していく姿が印象的な映画。】」Shirley シャーリイ NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【不穏感が横溢する作品。(褒めてます。)作家シャーリーと夫の歪んだ悪魔的な人間性に呑み込まれつつ、夫の為に彼らと嫌々同居していた若妻がシャーリーにより強かに自立していく姿が印象的な映画。】
■発表した短編「くじ」が話題になるが、シャーリー(エリザベス・モス)は体調の不調を訴え、ベッドに寝た切り。
大学文学部教授のスタンレー(マイケル・スタールバーグ)は一計を案じ、助手のフレッド(ローガン・ラーマン)とその妻ローズ(オデッサ・ヤング)を自宅に住まわせ、ローズに家事全般をお願いする。彼女は夫の為と思い、その申し出を引き受ける。
◆感想
・色んな所に書いてあるが、序盤はシャーリーを演じたエリザベス・モスの眼の下の濃い隈の顔と、ローズに対しての非常識な言葉が、観ていてとても嫌な気持ちになる。
エリザベス・モスは、元々”何処か、内臓がやられているんではないか?”と思う位、目の下の隈が印象的な顔つきと、意地の悪そうな眼付きの女優No3に入る方であるが、今作ではそれが非常に効果的である。
・更に、シャーリーの夫スタンリーがコレマタ嫌な奴で、最初はフレッドに対し下手に出るが、フレッドに対する出自の劣等感を隠さずに、約束していた論文を読む事を引き伸ばし、更には彼の論文をローズとシャーリーの前で酷評するのである。
更には、露骨にローズに背後から近づいたりして・・。
似たモノ夫婦であろう。
・だが、シャーリーは徐々にローズを受け入れていく。描かれないが消息不明になったスタンレーの教え子ポーラをモデルにした小説を見て貰っているとも言っている。
・シャーリーはスタンレーが勤務する大学の学部長主催のパーティに行っても毒を吐き続けるが、彼女に感化されていたローズも、盛りつけられたサンドイッチをポイポイとさり気無く床に捨てている。
■更にシャーリーは、ローズに対し”貴方の夫は浮気しているわよ。女学生の中からよりどりみどり・・。”と言ってニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。
だが、ローズにも思い当たる節は沢山有って・・。
そして、フレッドとローズの夫婦関係に軋みが入り始めるのである。
■徐々に強かな女になって行くローズは、シャーリーの車でポーラが行方不明になった道で降ろしてもらい、二人は坂道を上がって断崖絶壁に立つのである。
この辺りは、現実が小説に侵食され、境界が曖昧になっている状況を示している。
<ラスト、フレッドとローズはシャーリーの小説が書き上がったために、漸くスタンリー&シャーリー宅を車で出るのであるが、ローズはフレッドに対し冷ややかな視線を向けている。一方、スタンリーはシャーリーの小説を激賞し、シャーリーも嬉しそうである。
今作は、作家シャーリーと夫スタンレーの歪んだ悪魔的な人間性を描くとともに、一見彼らに養分を吸い取られたかのように見えた若夫婦の中で、素直で従順だった妻がシャーリーから薫陶を受けた事で強かな女になっていく様を描いた不穏感が横溢する嫌な気持ちになる作品である。>
<2024年8月14日 刈谷日劇にて鑑賞>