「古典的ロマコメを男女逆転させた良作」知らないカノジョ ユウさんの映画レビュー(感想・評価)
古典的ロマコメを男女逆転させた良作
「自分の殻に閉じこもっていた主人公が、そこから連れ出してくれる恋人に出会い、時を経てその愛を失いかけるも、親友の助けを借りて自分を見つめ直し、本当の愛を知るに至るー」
SFの要素をあえて捨象してプロットを辿ってみると、この映画は古典的なロマンティックコメディの形をしている。
恋人たちの幸せな日々を音楽にのせて描くシークエンス、窮地に陥った主人公に何くれとなく世話を焼く陽気な友人、ぼんやりと事態の推移を見守る犬など、往年のロマコメのクリシェも散りばめられている。
しかしその主人公、つまりロマコメ・ヒロインのポジションをケンティーこと中島健人が担っているのがこの映画のユニークさであり、今っぽいところ。
主人公リクは、大学時代にミナミと恋に落ち結婚するも、自分が作家として成功したことで、仕事にかまけてパートナーを蔑ろにする。そこでリクが突如、並行世界(ーそこでは主婦だったミナミは国民的なシンガーソングライターに、リクは創作活動に挫折し編集者になっており、さらに2人は出会ってもいないー)に飛ばされ、愛を取り戻すために奔走する…というストーリーなのだが、中島健人はエゴイスティクな男性性と、観客に「助けてあげたい」と思わせるヒロイン性とを不思議と両立させていて好演。
印象的だったのが、ミナミとの出会いにまつわるシーン。深夜の大学での逃走劇、ミナミはリクを引っ張って走り、フェンスに開いた穴から彼を逃してやる。
リクの中でその穴は「ミナミにひとめ惚れをした場所」なのだけれど、「自分の殻の中に閉じこもっていたリクをミナミが救い出してくれた」ことの象徴でもあるように思える。完結しない小説を誰にも読ませることなく書き続けていたリクは、ミナミと出会うことで「読者」という存在を許せるようになり、作家への道に踏み出すからだ。
思い出のフェンスの穴を、キラキラとした目で見つめるリクの姿は本当に愛おしい。そんな少し古風なヒロイン像を、パブリックイメージが"王子様"の人が体現しているのがいい。
milet演じるミナミの歌唱は、そんなヒロインにかける素晴らしい"愛の魔法"だった。
ただしミナミの人物造形が、やや都合がよすぎたり、厚みを感じられない部分があり(並行世界でリクを受け入れるまでの心の動きがわかりづらく、恋人であるプロデューサーの狡猾さと比較することでリクに好意を持つようになった風に見える・・・など、初見の感想だが)、miletの自然体な演技が魅力的だったぶん、残念。
そして、この映画で特筆すべきなのは、主人公リクと親友・カジの友情だ。
ロマンティックコメディにおいて主人公とその親友は、主人公の恋人たちと同等、もしくはそれ以上に愛される”カップル”でなくてはいけないと思っているが(観客が「もう男(恋の相手)のことは置いておいて、親友と楽しく暮らしてるところを見てたい〜」ってなるやつ)、この映画ではそれを桐谷健太×中島健人の男性コンビで達成している。
それも”露悪的な部分と見せ合う”といったような旧来の男性的な友情ではなく、純粋に互いを思いやり、ケアしあうという関係で。
これが「知らないカノジョ」のいちばん素敵なところであり、古典的ロマコメからの飛躍に最も成功している部分だと思う。
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