劇場公開日 2025年1月24日

「イノベーションを阻む三つの要因」雪の花 ともに在りて ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0イノベーションを阻む三つの要因

2025年1月26日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

興奮

難しい

『吉村昭』の原作は
江戸末期の福井藩に実在した医師『笠原良策』をモデルにしたと聞く。

藩内のみならず、近隣諸藩にも種痘を広めた経緯と努力は
映画でも描かれている。

彼は過去に天然痘の患者に何の治療も施せなかった過去があり、
何とかしたいとの強いこころざしから、
私財を投げ打ち、無私の思いで奔走する。

が、それを阻む勢力が存在するのはお約束。

現代風に言うと
イノベーションを阻害する幾つかの要因に当てはまるか。

個人的には、
「企業文化」
「過去の成功体験」
「社内政治、縄張り意識」
を挙げたい。

夫々は本作でのエピソードにも類似する。

「企業文化」は世間の因習に読み替える。
種痘との新たな予防法に対するアレルギーは、
「接種すると牛になる」との根拠のない噂に集約される。

「過去の成功体験」は蘭方医に対する漢方医の反発。
勿論、自分たちの立場が脅されるとの畏怖はあり、
頑迷な姿勢は庶民を救うよりも
過去積み上げて来た医術を守ることに固執する。

「社内政治、縄張り意識」は封建主義や官僚主義。
事なかれで、徒に結論を引き延ばしたり、
黙殺することで見て見ぬふりを決め込み
嵐が通り過ぎるのを座して待つ。

全ては自身の保身のため。
それにより他者が被る不利益に思いは及ばない。

主人公を阻むもう一つのファクターに
北国の厳しい自然がある。

痘苗を植え継ぐため、
厳寒の栃ノ木峠を、豪雪をかきわけ暴風に耐え、
幼児を連れて越える。

『笠原良策(松坂桃李)』は諦めずに敢然と挑み、
知恵も駆使して克服する。

もっともこれには
蘭方医『大武了玄(吉岡秀隆)』との会話の前振りが。

自然と対峙する西洋式の考え方が、ここで生きて来る。

とは言え、権威の側の多くが居丈高だったり
策を弄するばかりなのとは裏腹に、
草莽の人たちが
皆々意識や志が高いのには少々鼻白む。

これは原作が、
元々は子供向けの読み物として書かれていたことが
影響しているのかもしれぬ。

本作のもう一つの柱は、
『良策』と妻の『千穂(芳根京子)』との関係性。

徒におもねることなく、
一個人としての考えを尊重する。

互いに理解し信頼し合い、
苦難も共にしようとの強い絆と
影日向に夫を支える芯の強い姿も描かれる。

二人の会話や佇まいを見ているだけで、
心がふうわりと温かくなるのは、
苦難が渦巻く中での一服の清涼剤。

ジュン一