劇場公開日 2025年1月24日

「題材・役者は良いが、脚本・演出に大いなる疑問」雪の花 ともに在りて 泣き虫オヤジさんの映画レビュー(感想・評価)

2.5題材・役者は良いが、脚本・演出に大いなる疑問

2025年1月26日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

知的

今や実力派俳優の地位を確立した松坂桃李主演、NO,1男優役所広司も出ているということなので期待を持って観賞。

【物語】
舞台は江戸末期の福井藩。疱瘡(天然痘)の大流行によって多くの庶民が命を落としていた。城下町に暮らす町医者笠原良策(松坂桃李)は、ただ患者を隔離するのみで何も治療することなく患者を見捨てている自分に深く絶望していた。そんなとき、たまたま旅先で出会った蘭方医(吉岡秀隆)から蘭方の先進性を聞き、そこに光明を見出す。

漢方医だった笠原は蘭方も学ぶことを決意。 京都の蘭方医・日野鼎哉(役所広司)の門下生となり教えを請う。貪欲に蘭方を学ぶ中で、日野から西洋では疫病の予防法として種痘が広まっていると聞かされ、笠原は福井にもこれを広めようと決意する。

地元に戻った笠原は、妻・千穂(芳根京子)に支えられながら、地元の人々を救うため、種痘導入に向けてさまざまな困難に立ち向かう。

【感想】
正直いささか期待ハズレ。

私財をも投げ打ち、命を賭けて、全身全霊人々の命を救うために尽力した、正に医者の鑑と言える人物が居たと言う話。一般の人には知られていない偉人にスポットを当てたことはとても良いと思うし、彼の半生は興味深かった。

つまり映画の企画としては秀逸だと思う。キャスティングも全く問題が無い。ガッカリなのは脚本・演出の部分だ。
1つ1つの展開が不自然で、違和感を覚えた。

一番良い例は、笠原と笠原に協力した町人たちが命懸けで雪の峠を越えるシーン。“命懸け”を演出したかったのは分かるが度を過ぎていた。あれでは“八甲田山”の雪中行軍だ。現代の雪山装備ならともかく、あの時代のあの軽装では間違いなく死人が出る。しかも翌日は全員ピンピンしていて「苦労掛けて悪かったね」くらいの軽い労い。 あの峠越えが史実だったら彼らの中の「何人かは凍死、また何人かは手足を失うような重い凍傷で床に臥せている」でなければおかしい。 「危ういながらも全員無事に峠越えを果たした」が史実であれば、「突然の吹雪で視界も利かない中の峠越え。幸い積雪は3~4cmだったが、もしあと1時間遅かったら積雪で峠を越えられなかったであろう」という演出が妥当だ。 そもそも地元の人間なのだから冬の峠越えが命懸けなのは知っているはずだから、なぜこの時期に峠越えしたのか説明が必要。笠原が村人の話を聞いて「もう雪が降ったのか」というセリフで例年により雪が早かったことは分かるが、それのみ。弱過ぎる。

「本当はもっと早い季節に越えるはずだったが、予期せぬ障壁で初冬になってしまった」とか「今大流行中でたくさんの人がどんどん亡くなっており、春まで待てない」とか。命を救うことに全身全霊の笠原が、命懸けのリスクを軽く考えているように見えるのは大いなる矛盾。

それだけでなく、藩の協力を得るのに苦労していたのに、次の展開であっと言う間の解決。呆気にとられるばかりで説得力に欠ける。 周囲で誰も経験していない医療行為に慎重派・反対派が出るのは理不尽ではなく行政としては至極当然のこと。だからこそ「なるほど」と藩の幹部も納得した説得力ある展開が必要だろう。

そう感じる納得できない展開が随所に。「偉業の実話」ということに甘えてそういう観客を説得する脚本・演出を提供する努力を怠ったのではないか、そんな風に思えてしまう。題材、役者が良かっただけに残念。

泣き虫オヤジ