劇場公開日 2025年1月24日

「もう少し深堀りがあってもよかったかもしれない」雪の花 ともに在りて yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0もう少し深堀りがあってもよかったかもしれない

2025年1月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

今年29本目(合計1,571本目/今月(2025年1月度)29本目)。

 ドキュメンタリー映画ではないですが、実際に実在した江戸時代の学者を描く部分もあるので、「その限りで」ドキュメンタリー映画というふしはあり、そのため、あまりこう起伏のない部分はあります。あまりにも大幅に改変しすぎているのは問題ですからね。

 この手の(広義の意味での)時代劇は言い回しが難しいといった問題などありますが、海外進出も想定しているのか、現在でいう現代日本語とほぼ同じ発言になっていたのは確かにそうですが(江戸時代中期以降は、今の日本語と大差なかったといわれる)、そこは海外への進出を考えればよかったかなと思えます。

 純粋たるドキュメンタリー映画ではないですが、性質上どうしてもその色は出るし、そのレベルでは仕方がないのかな、と思えます。

 天然痘の撲滅というと「ちょっと前」ではありますが、その「撲滅宣言」にいたるまで日本ではいろいろな学者が研究を進めており、それが実を結んだ形になります。一方、最初に出るように、当時、天然痘は恐れられる病気として知られていましたが、この主人公をはじめとして、京都や長崎(映画内参照)でオランダ流の西洋医学を学んだ医師が、各国の諸藩に戻りこの天然痘の予防接種をはじめたのは事実で(だから、彼1人「だけ」の功績ではない)、、それが日本が第二次世界大戦を経験した中でも「比較的早めに」撲滅宣言を出せたいのは、彼らの生涯の歴史によるところが大きいです(後述)。

 採点に関しては以下まで考慮しています。

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 (減点0.2/その後、天然痘がどのような扱いを受けたのかまるで書いていない

 もちろん、主人公とは「無関係」ではありましょうが、ここは一言欲しかったです(後述)

 (減点なし/参考/主人公、また京都・長崎等で西洋医学を履修した医師の功績)

 この映画はほぼ江戸時代末期にあたります。日本ではその後「天然痘は撲滅すべし」という考え方から明治政府も普及を進め、今につながったところがあります。このことは、日本が第二次世界大戦後に撲滅されたことにあらわれます(現在は全世界で撲滅宣言がWHOでなされている)。日本では昭和21年に戦後の混乱期で20,000人ほどの患者が見られた(戦前、戦中でもここまでの人数は記録されていない。戦後の混乱期を示すひとつのデータ)ほかは目立ったデータはありません。

 ただ、これら歴史を振り返ると、彼も含め当時の医師が天然痘の撲滅に強い危機感を持っていたため、持っている知識(何とか法を試したら成功率がどうだの、注射するときの注意点や、死亡例など色々)は惜しまず全体(いわば、江戸時代の医師会のようなものか)にシェアするという考え方が普通で、当時、医師など専門職は漢文で読み書きするのが普通だったところ、「意識的に」書き言葉も漢文ではない標準語で(江戸時代末期のお話なので、会話レベルでは現在の話し言葉の日本語と大差ないといわれる)書いた書籍で出版したものが広く普及し、それが明治政府の政策においても(当時の医師等が)ほぼ「これまでの取り組みでどのようなことが分かっていたのか」ということをすぐに理解できたという「隠れた功績」があります。

 (減点なし/参考/当時の質屋と質屋取締法・質屋営業法ほか)

 映画内で質屋が出て「質草は質流れになった」というように、質屋はこの当時には普通にありました。

 一方、明治時代以降の「法による支配」の中で帝国憲法や旧民法が定まるとき、当時の日本の商文化には配慮する必要があったため、旧民法はフランス・ドイツを参考にしていたところ、質権については抽象的規定しかおかず、その大半を法律に任せた(旧質屋取締法、現質屋営業法等)という事情があります。このように江戸時代末期にもなると現在に何を与えたかがかなりはっきりと登場します。
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yukispica