「教育教材動画か、福井自治体パビリオン/博物館で偉人:笠原と春嶽紹介動画を見ているような。」雪の花 ともに在りて とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
教育教材動画か、福井自治体パビリオン/博物館で偉人:笠原と春嶽紹介動画を見ているような。
題材と松坂さんに魅かれて、試写会応募。当選。
感謝なのだけれど、舞台挨拶に監督が出ていらして後悔。監督をチェックするのを忘れていました(´;ω;`)ウッ…。
天然痘との戦い。一介の町医者が思いを貫き、周りの人に助けられて、成しえた偉業。
その発端からの顛末を描く。
原作未読。
総てを描こうとして、メリハリがなく、物語が進む。
なのに、無駄なギャグが入って、背筋が凍る。エッヘン、エッヘン。なんだそれ。
否、描き方によっては、とてもドラマチックになるエピソードは幾つもある。
蘭学を否定していた笠原が、蘭学との出会い、のめり込んでいくまでのエピソード。
書物で、画期的な治療法を発見。個人的には、書物だけで、「これだ!」と入れ込むのは怖いと思うが、まあ、物語の進行上、仕方がないとして。
その治療法に必要牛痘が手に入らない。いかに手に入れるかだけでも、一話ができるほどの攻防があるのではないかと思うのだが…。
あっさり。
小林監督の映画は『雨あがる』『明日への遺言』『蜩ノ記』しか見ていない。
その、『雨あがる』『蜩ノ記』のレビューでも書いたが、小林監督の映画は、人の・社会のきれいな上澄みだけをすくって映画に映し出しているような、さっときれいに作った澄まし汁。 奥底に色々なものが沈みつつも、上澄みが透き通っているようなコンソメのコクが足りない。”毒”がない。
『明日への遺言』も、映画自体は何を描きたいのか迷走していると私には思えるが、それでも、主人公を演じられた藤田まことさんと、その妻を演じられた富司さんの存在感・演技で、心に残り、繰り返し見たい映画になった。だが、この『雪の花』では、そこまでの存在感を示す役者はいない。松坂さん善戦しているけれど。
「黒澤明監督の助監督」小林監督を語るときに、必ず、言及される肩書。試写会のインタビューでも取りざたされていた。
だから、つい、黒澤監督と比べてしまって、物足りなく感じるのかと思ったけれど、この映画に関しては、それがなくとも、きっと物足りないと思うだろうなと思う。
と言いながら、最近黒澤監督の映画『七人の侍』『デルスウザーラ』を観たばかりだから、つい、黒澤監督だったら、どう撮ったかと考えてしまう。黒澤監督がと言うのはおこがましいが、私だったらなんて、これまたおこがましいことを考えてしまう。
もし、私だったら、雪の峠越えから始めるな。赤子を抱えて、大人でも遭難の危険性のある峠を越えるかという論争だけでも、見ごたえのあるものになると思うけれど。
種痘を絶やしたくない笠原。そこに、藩主の許可をどう得たかとか、京都の日野たちの想いとか、天然痘で亡くなる方々の想いとか、前半のエピソードは盛り込める。
対して、子どもを危険な目に合わせたくないのが両親ではないだろうか。特に行商人は雪の峠越えの危険性を知っている。鑑賞しているこちらも、『八甲田山』や、漫画『岳』で、ホワイトアウトの恐ろしさを知っているから、当然、反対意見が出るのは想定内。
山越えに力を貸す人足や人足頭たちも言葉を挟むであろうと思うのだが。
種痘は子どもにと言うが、映画の中では、最初小瓶に入った形で届くし、京で種痘をつないだのは、幼い子どもではないから、赤子を連れまわす以外の手段の吟味もあってしかるべきなのにと思ってしまう。
そして山越え。この山越えが、映画の売りのシーンのようなのだが(役者やスタッフは大変だったろうが)、『デルスウザーラ』の凍死の危機に直面した時の緊迫感には及びもつかない。『デルスウザーラ』は黒澤監督作品の中ではあまり評価されていないというのに。
福井に種痘を持ち帰ってからも困難は続くが、この映画のような薄っぺらい描き方なら、後日談、老後の笠原の回顧話としてまとめても良いくらいと思ってしまう。
黒澤監督の映画にはもっと、人生・社会のダイナミズムが溢れている。人としての素晴らしさだけでなく、浅ましさ・欲・悲哀・滑稽さが溢れており、そこに強烈に魅了される。
でも、小林監督の映画には、敵役、エピソードや台詞としては、浅ましさ・欲・悲哀は出てくるが、シーンとしては出てこない。
『雪の花』にも、協力者だけでなく、妨害者も出てきて、対立構造となるシーンはある。笠原や妻・千穂が殺陣を披露し、笠原が大声を出して、藩の役人に楯突いたからお咎めがあるかもと悩むシーンはあるが、ガチに対決するときの緊迫感はない。『雨あがる』『蜩ノ記』にも、殺陣はあるものの、お互いがガチに対決するような猛々しいシーンとはなっていない。『明日への遺言』は、論戦で、藤田さん演じる岡田中将は大声を出して他を威嚇するようなシーン、立ち回りはないが、主水のような底知れぬ強さがにじみ出ていた。これは演出ではなく、藤田さんならではであろう。
もう一つ言うと、疱瘡に罹患しつつも生き延びたはつ。痘痕が残っていると悩むシーンがあるが、はつの顔に一目でわかるような痘痕はない。コンプライアンスが働いたのか?
そんなこんなで、きれいな部分しか見ない上っ面を撫でただけの映画に感じてしまう。
極めつけが終盤。まるで、悪いことをした児童・生徒を教員が叱るシーン?というものが出てくる。水戸黄門/暴れん坊将軍の〆と同じように、胸がすく方もいらっしゃるだろうが。う~ん。教育映画?
音楽も私には合わなかった。
音楽自体はきれい。だが、このシーンにこの音楽?ないほうがシーンを味わえると、邪魔に思ってしまった箇所が何回か。
それでも、この映画が遺作となった上田さんの映す風景は美しい。それだけでも眼福。
そして、松坂さんもまっすぐな医者を好演されている。
畳に手をついて挨拶する姿も、昔お茶をかじった時に習った作法で、時代劇を演じるにあたり、いろいろと調べたのか?この手のつき方の挨拶をしていたのは笠原だけだったから、松坂さんの工夫だと思うけれど。
とはいえ、映画の中での人物が年を取らないから、2,3年の出来事のようでそこは違和感。でも、それは演出のせい。
殺陣を披露される。『赤ひげ』へのオマージュであろう。腕を折る必要がないのに、折って見せるおまけつき。でも、こなれていないから、段取り見え見えで、失笑。ここを削って、他をじっくり見せてもらいたかった。
芳根さんが微妙。
『64』にも出演されていたが、じっくり見るのは初めて。
笠原の後ろで、笠原と誰かが話している横でのリアクションは上手い。本当は上手い役者さんなのであろう。
だが、笠原と二人のシーンとかは、作りこみすぎて、わざとらしい。変なギャグを入れてくるから余計に白々しくなる。肌を合わせた夫婦の情愛が感じられない。近くに住んでいる親が決めた婚約者が笠原の手伝いをしている感じ。
殺陣は頑張ったと思うがこちらもこなれていない。太鼓も頑張ったと思うが発表会レベル。これらのシーンはなくてよい。ここを削って、他をじっくり見せてもらいたかった。
他には三浦さんが儲け役。元沖がいなかったら、そもそも笠原の活躍はない。
良家の子息が父に反発しながら笠原のために自分の道を貫くのだが、生来の育ちの良さのおっとりさが出ていて、一種の清涼剤。御典医としての道は外さず、藩内に協力者を作っていく。
なので、★2.5。