「離れの方に飾られた写真が、この家の歪さを物語っていた」愛に乱暴 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
離れの方に飾られた写真が、この家の歪さを物語っていた
2024.9.3 MOVIX京都
2024年の日本映画(105分、G)
原作は吉田修一の同名小説(新潮社)
夫の浮気が原因で不可解な行動を取る妻を描いたヒューマンスリラー映画
監督は森ガキ侑大
脚本は森ガキ侑大&山崎佐保子&鈴木史子
物語の舞台は、日本のどこかの地方都市(ロケ地は神奈川県綾瀬市)
専業主婦の初瀬桃子(江口のりこ)は、夫・真守(小泉孝太郎)とともに、夫の実家の離れで暮らしていた
義母・照子(風吹ジュン)との関係は普通で、そこまで干渉し合うこともなかった
桃子は前職のツテで手作り石鹸教室を開いていて、元後輩の浅尾(青木柚)が彼女のサポートにまわっていた
彼女は、石鹸教室をもっと広範囲にしたいと考えていて、元上司の鰐淵(斉藤陽一郎)にコンタクトを取っていたが、良い反応は得られていなかった
夫との関係は可もなく不可もなくと言う感じだが、夫は桃子のことには興味を示さず、いつも生返事ばかりを繰り返していた
最近は出張が多く家を空け、夕食も外で済ますことが多く、団欒を築くような時間も持てなかった
桃子はいつも義母のゴミ出しを手伝っていて、その際に不法に投棄されたものや、汚れたところを掃除して回っていた
ある日のこと、数区画先で火事が起き、それはゴミ置き場の放火であることがわかった
地元の警察官(西本竜樹&堀井新太)は住民に注意を促し、桃子もその注意喚起を受けることになった
映画は、街の中で不穏なことが起き始めるのと同時に、夫の様子がおかしくなっていく様子が描かれていく
急に香港に出張が決まったと思えば、帰国したスーツケースのワイシャツなどは綺麗にアイロンがけがされていた
また、桃子の言葉に過剰反応になるかと思えば、聞こえていないふりをするなどして、夜の生活も拒否され続けてくる
桃子は誰かいるのではないかと疑うものの、決定的なものはなく、独り言のように呟くだけ
だが、夫はその小言に大きな意味を感じていて、とうとう「告白」をすることになったのである
夫の不倫相手は教員をしている三宅奈央(馬場ふみか)という女性で、彼女は妊娠5ヶ月だと知らされる
その後、彼女のアパートを見つけては乱入し、そこで妊娠が本当かなどと詰め寄るものの、母子手帳を見せられて唖然とする
さらに実家にフラッと寄ってはみたものの、そこには自分の居場所はなく、兄一家と母(梅沢昌代)の二世帯住宅のような感じになっていて、桃子の部屋は子どもたちの遊び場になっていた
そして桃子は、何を思ったのか、ホームセンターでチェーンソーを買い、離れの床を切り壊して、そこにあった丸い缶を引き摺り出す
そこには、かつて桃子が妊娠していた時に購入したベビー服が仕舞われていて、彼女は夫との婚前に流産をしていたのである
映画は、桃子自身も妊娠を理由にした略奪婚をしていたことが判明し、そのことを告げずに結婚した桃子は義母に不審な眼差しを受けていたことがわかる
その秘密の蒸し返しによって桃子の中で何かが壊れ、そして、奇行にも思える行動を繰り返していく
いわゆる略奪婚の連鎖となっていて、わかりやすい因果応報に晒されている、と言う内容になっていた
いずれにせよ、江口のりこの演技を堪能する内容で、まともな人は一人もいない印象だった
元上司も口だけの男で、元部下はまだマシに思える
桃子の居場所が一つずつ壊れていく中で、どこかに行かざるを得ない状況になって行くのだが、唯一の救いはホームセンターの店員である近隣住民の李(水間ロン)の言葉だろうか
本来は夫から言われたかった言葉だと思うが、劇中では一度もその言葉は聞かれない
そう言った関係性を続ける意味があるのかが問われていて、それは義母がこぼした「若いうちに」と言う言葉に集約されている
それがラストの決断に繋がっているのではないだろうか