劇場公開日 2024年6月28日

「主人公の感情に、思い当たる節がありまくる作品」ルックバック ソビエト蓮舫さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0主人公の感情に、思い当たる節がありまくる作品

2025年5月5日
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鑑賞方法:VOD

泣ける

悲しい

漫画だけじゃなく、ありとあらゆる表現作品、
もっと広義に言えば、スポーツや開発研究、仕事などの分野でも、
映画の中の主人公が見せる感情、劣等感、嫉妬心、承認欲求、などを見て、
何かしら感じる所がありそうな作品だった。

のちに小説家になった同級生の友人Aがいる。
学生時代、Aに自作の痛々しい小説や、痛々しいポエムを見せて、それだけでも恥ずかしいのだが、
見せた上にどや顔をしてたという、恥の上塗りのようなエピソードがある。
私は、Aの才能に全く気づいていなかった。

むしろもう1人の、共通の友人だったBの方に文才があると思っていた。
Bは文芸部に入っていないのに、定期的に文化祭用の長編小説を、
文芸部が編集する作品集に提出し公開していた。Bの書いた小説はべらぼうに面白かった。
語彙力に高校生らしからぬものがあった。
そんなBは、有名大に進学したが小説家にはならず、今は損保会社の偉い人になっている。
損保会社で働く人々を集めて、イロハを教えるセミナーを主催している。

一方Aは、地元の大学に進学し、スポーツインストラクターを経て、
大病を患ったのをきっかけに、小説を書き始め、賞を取り、小説家なる肩書きに転身した。

AやBや私は、演劇部に所属していた。ここの先輩にCという先輩がいた。
劇作家志望で、ウッチャンナンチャンも通った有名な専門学校へ進学し、
小劇団で舞台作品を書いていた。僕らにも高校生用の台本を書いてくれて、
そのおかげもあり、大会はいいところまで行った。
今、C先輩は何をしているか、知らない。

今考えると、自分の周りにはクリエイティブな才能溢れる人ばかりいた。
でも、社会的に評価されるまでに至ったのは、学生時代に、
そんな片鱗すら垣間見せなかったAだけなのだ。
そして、私はというと、何もしなかった。
努力しても才能豊かな彼らとは、埋まりそうもない絶対的な差を感じたし、
負け戦に打って出る勇気すらなかった。

藤野は学級新聞で、自分よりも画力の高い引き篭もり同級生の存在を知り、一度は挫折する。

でも、その後の藤野のリカバリーが凄かった。努力に努力を重ねる藤野が、とても眩しくて羨ましい。

その後、京本と出会って一緒に漫画を描く切磋琢磨のターン。
京本から先生と崇められ、承認欲求も満たし、さらに自己研磨に拍車がかかる。この辺りの話もグッときた。

00年代、私は競馬のホームページやらブログやらで活動していた。
とある競馬雑誌でカルト的人気を誇る予想理論があり、それを研究発表したり、
行動実践したり、掲示板など議論したりする場所を提供し、
そこにその予想理論の愛好家やらファンやらが、続々と集まるようになり、
それなりに有名になっていた。

人集めの為に文章を書いて、喜んでもらうとこちらも嬉しい。
承認欲求は満たされ、次はもっと、次はもっとと、四六時中競馬を研究し、文章も毎日のように書いて更新した。

しばらくすると、その既存の予想理論の真似事だけでは飽き足らず、
自身の競馬観や思想を注入した、オリジナル予想理論の構築を始めるようになった。
開発研究に明け暮れ、今度は文章でそれを表現発表するのではなく、
ポッドキャスト等の音声で発表するようになる。
自分のサイトに出入りする常連の人やら、ブログ仲間らと、レースのたびにあーだこーだと議論を白熱させるのだ。
レース本番よりも、前予想の議論の方が面白すぎて、のめり込むようになる。

その矢先に突然、その活動は終焉を迎えた。ポッドキャストの議論相手のうちの1人だったD氏が、
プロの競馬予想家として、メディアデビューが決まったのだ。
D氏の理論構築は明らかに完成度が、他の人とは違って優れていたし、結果も出していた。
何より、予想家として弁の立つ語り口調だった。
今もD氏はテレビへ頻繁に出演しており、その界隈では有名人なのだが、
またしても私は大きな挫折と、劣等感と、嫉妬心を抱く展開に至る事になる。

美大進学を決めた京本から、決別を言い渡される藤野の感情を想像するだけで、心をえぐられる。
別に私は、藤野のように目指す所があったわけではないが、
埋められない喪失感、置いてけぼり感、それを受けてもなお「何もしない」選択をした後悔の念で、
身につまされた気分になる。
どの選択が正解かは今でもわからないが、
京本と藤野の、どちらにもなれなかった自分の何ともいえぬ感情をひた隠しにし、お札でペタペタと封印していたのに、
引っ剥がされた感じがして、だいぶ疲れてしまった。

ぶっちゃけ、賛否両論ある終盤のくだりについては、あまり興味がないというか、
それまでが明らかに自分事過ぎた対比としての「他人事感」が強くて、特に感想は無い。

ソビエト蓮舫