「ニコイチ」ルックバック レントさんの映画レビュー(感想・評価)
ニコイチ
漫画をきっかけに無二の親友となった藤野と京本。藤野は京本に触発されて画力を磨いた。京本にとっては藤野と同じ学年新聞に漫画を連載することで社会との接点が持てた。
偶然が彼らを引き合わせたが、出会った二人が共同作業で作品を作り上げるようになったのは必然だった。
13歳という若さでデビューを果たした彼らに編集者も注目する。たぐいまれな才能、高校卒業を機会に連載の話が持ち上がる。
藤野はこれからも京本と共に漫画を描いていけると思っていた。しかし京本の気持ちは違った。彼女は藤野と出会い本当に絵を描くことが好きになっていた。今までは引きこもりでほかにやることがないから描いていたが自分の絵が商業誌に掲載され、憧れの藤野の役に立てたことで本格的に絵を描くことに目覚めたのだ。
美大に通いたいという京本。引きこもりだった彼女にしたら大きな進歩だ、そして彼女をそうさせたのは誰でもない藤野だった。皮肉にも藤野はそれで無二のパートナーを失う。連載は順調ながらもやはり京本に代わる良きアシスタントはなかなか見つからない。
そんな時に訃報が飛び込んでくる。美大で起きた無差別殺人事件で京本が犠牲になってしまったのだ。
自分が引きこもりから抜け出させたせいで京本は殺された。こんなことなら部屋から出さなければ良かった。
そんな藤野の願望がかなえられたのか、藤野と京本が出会わなかった別の世界からまるで時空の扉の隙間をすり抜けてきたかのように四コマ漫画が藤野の元へ。そこには「背中を見ろ」の文字が。振り向いた藤野の目に飛び込んできたのは藤野が漫画家として初めて自分の熱烈なファンに向けてサインをしたはんてんであった。
ただ日々の締め切りに追われて描くことに苦痛を感じていた藤野。このまま連載を続けることはできないかも。そんな挫折しそうな彼女はまたしても京本に背中を押される。小学生のころ京本にかなわないと漫画をあきらめかけた時、自分のファンだとサインをねだった京本にあの時も背中を押された。今の自分があるのは京本のおかげだ。そして京本もたとえひと時ではあっても、藤野との出会いで自分の人生を謳歌することが出来た。
再び一人原稿に向かう藤野の背中がそこにはあった。これからも藤野は漫画を描き続けるだろう。その藤野の心の中にはいつも京本がいて、二人はこれからも共同作業を続けていく。彼らは二人で一つ、ニコイチの関係なのだ。
本作は理不尽な暴力によって命を奪われた犠牲者たちへの作者の藤本氏なりの哀悼の意を込めた作品なのだろう。自分と同じクリエイターたちが不条理にも命を奪われなければならなかったことへの悲しみ、理不尽な暴力への憤りが本作を通して感じられた。
あの事件で亡くなった犠牲者は作者の藤本氏にしてみれば同じ志をもって創作活動していた同志ともいえる存在。藤野にとっての京本だったのだろう。
同志の犠牲の原因が、やはり創作に関するものだったというのがやり切れず、見ていて本当に苦痛でした。観終わって直ぐは、別な世界線描写が現実逃避にも感じられ、同時に救いにもなってました。