「藤野を引き立てるためだけの映画」ルックバック オニオンスープさんの映画レビュー(感想・評価)
藤野を引き立てるためだけの映画
原作は配信された当初の1回か2回ほどしか読んでおらず、記憶も曖昧で、そこまで熱心なファンという訳ではないため見当違いな事を書いているかもしれません。そこはどうかご容赦ください。
作画、アニメーション表現、背景、音楽、声優は非常に素晴らしく、手放しで絶賛するべきものであった。
昨今は3DCGなどで済ませるアニメもある中、全てのシーンを手書きにこだわっているのが十分に伝わり、クリエイターの方々の覚悟と誇り、まさしく努力の賜物を突きつけられ大変満足出来た。
ただ、内容的には物足りなく感じてしまった。
というのも、この物語において重要なキャラクターであるはずの京本が大変雑な扱いをされてしまっているからである。
京本が自分で美大に行きたいという決心、恐らく東京に遊びに来た時に見た背景画の本を手に取った事がきっかけであると思うのだが、そこがあまりにもあっさりと済まされてしまう。
そして藤野との喧嘩別れからの都合よく殺されてしまう。言うなれば京本という人物には全く焦点が当たらず、物語前半は藤野において圧倒的な才能で自信をへし折る壁として、後半は物語においての盛り上げ役、藤野に対しての引き立て役としてしか機能していなかった。
個人的には、今作は藤野が京本に尊敬されている事を知り、雨の中で力強いスキップをして、帰宅直後に体も拭かずに机に突っ伏し、また描き始めるというシーンが最高潮であったし、藤野と京本が合作し始めるというシーンで完結していた様に思えた。
そこに藤野のクリエイターとしての葛藤や敵対視にも近い一方的な思いから、互いを認め尊敬し、成長する姿も映せていた。(しかしそこにあまり時間をかけなかったためか、さらっと終わってしまった印象でしっかりと描けていたかというと自分は満足するものではなかった)
だから後半は蛇足感が否めなかった。
正直、藤野は京本が生きてても亡くなってても、京本の部屋に行って自分の漫画の原点とも言えるような4コマ漫画や自分の才能を大いに評価してくれた証としてのはんてんのサインを見つけていても見つけていなくても漫画は描き続けていたと思う。
なぜなら漫画家としてはもう成功しているから。
もし漫画家を生業とするには食べていけるか、いけないかの瀬戸際であれば最後のラストシーンで、藤野がそれでも尚、観客に背中を向き、描き続けるという選択が燦然と力強く映っていたのでは無いかと思う。
でももう藤野の才能は世間で評価されているし、天職であるのは目に見えて分かる。だから感覚で言うと悲しい出来事はあったけれど普通に「仕事」に戻っただけのように感じた。
もちろん夢を叶える為に数え切れないほどの努力や葛藤、クリエイターとしての苦悩は確実にあったと思う、ただそれを物語の前半だけ少し描いてあとは全てすっ飛ばして、単に藤野が漫画家を生業とし、京本の死という、いかにもな悲劇を加えただけのように映ってしまい、軽く感じてしまった。
むしろ前半こそ、挫折であったり夢破れたりと誰しもが経験するような事だと思うし、この映画の核では無いのかと感じてしまった。
個人的には前半部分をもっともっと濃密に詳細に描いて欲しかった。
ただ本レビューのはじめに書いた通り、アニメ表現としては大変目を見張るものがあり、それだけでも十分映画館で見る価値のある素晴らしい映画であった。
以下 映画に対してと言うよりも恐らく映画配給会社についての批判を強く訴えたい!
まあ取り沙汰されてはいるが映画料金が一律1700円という点である。
本作は上映時間の短さからods作品(非映画デジタル作品)と分類され、厳密には映画ではなく、演劇やオペラなどと同じ区分である為、本来ある映画料金とは外れ特別料金であると説明されている。
こんな事は明らかに粗悪な詭弁である。
まず本作品は映画館で上映される事を目的として作られているし、形態も誰がどう見ても映画そのものである。
ましてやルックバックの原作は集英社から出てるジャンプ漫画であり、ジャンプの主な読者層は10代〜20代がおよそ5割を占める若年層に人気のコンテンツである。それが映画化されるのだから本作の主なターゲット層は10代〜20代である事は明白。本来なら払わなくていい料金を配給元(エイベックスピクチャーズ)が少しでも多く取ろうとする意地の汚い魂胆が見え見えである。別にこれは自分が学生割引を使えなかった事に腹を立てているのではなく、映画業界がこれまで築き上げてきた料金体制を崩し、配給元(エイベックスピクチャーズ)が儲かるような下劣な商業主義に走ったことを非難しているのだ。
また、そんな料金を高くするこじつけに近いことがまかり通ってしまうのなら、配給元が儲かるような仕組みだらけになってしまい、長期的にみて大衆娯楽や芸術性など多種多様に富んだ側面を持ち合わせている「映画」という作品を創作することにマイナスの要素にしかならないのではないかという事も強く危惧している。
また、むしろ本作品は料金を安くしてでも、夢追う人達にエールを送り、何回でも見れるようにするべき作品ではないのか?と疑問しかない。
早急にods作品の映画に対しての料金の見直しを強く求める。
追記、パンフレット代が1500円と割高だったため、原画の写しなど、少し豪華なのかなと思い買ってみると、他作品のパンフレットとなんら変わりない、むしろ1500円という値段を加味すると明らかに内容がしょぼい。これは確実に値段不相応であった。
買う事はお勧めしない。
コメントありがとうございます。
漫画家さんは、売れてもう描かなくても暮らしていけるから辞めた〜とはならないのが業ですね。
料金には色々思う所があります。自分はしてないですが、せめてリピーターには半券持参割引とかしてあげればと思いますね。
京本が今後どうしようと考えていたのか測る術もないのですが、もし再び二人でやろうと考えていたとしたら・・。藤野がアシスタントに色々駄目出ししていたのもなんかフラグぽく感じます。売れててももっとイイものに出来た、二人だったら出来た筈のものに一人で向かっていく決意表明にも見えました。
確かに、姿勢や向き合い方は違っても“描き続けていたこと”は変わりないでしょうね。
せめて人気の低迷などによる挫折や葛藤で、筆を折る可能性を示唆しておけば、ラストの印象もまた違ったかと思います。
演出や余白に頼りすぎており、物語自体の深みはなかったと自分も感じました。