劇場公開日 2024年6月28日

「あるがままの姿で認め合うことの素晴らしさ」ルックバック penさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5あるがままの姿で認め合うことの素晴らしさ

2024年8月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

静謐で、プロ顔負けの背景画を描く京本の絵と、ダイナミックだが、絵はどこか荒削りな藤本の絵。藤本は京本に強いコンプレックスを感じ、猛烈に絵の勉強を始めるのですが、京本のレベルに達することはついに一度もなく、漫画を続けることを断念し連載を中断します。そんな藤本もやがて卒業のときを迎え、先生から欠席した京本に卒業証書を届けるように言われ、イヤイヤながら初めて会うことになるわけですが・・・・

「何故連載をやめたのですか?」実は、京本は、藤野の漫画の熱烈なファンであったことがそのとき、判明するのですが、そのことを知った藤本が、心を躍らせながら、自宅に帰るまでの描写が大変素晴らしく、世界が一気にばら色に輝いてみえるような感じが良く伝わってきて、この体験が藤本にとっても全ての原点なのだろうと思いました。

「アメリカン・ドリームは、単に物質的な豊さの夢ではない。(中略)自動車を持ち、高給取りになる夢でもない。むしろすべての男女が生来備わっている能力を使ってそれぞれが持つ最も大きな可能性を実現できる夢であり、生まれや地位によらず、あるがままの姿で他人から認められる社会の状態だ」昨日の日経に掲載されたフィナンシャルタイムスの論説では、ある米歴史家の1930年代のこの言葉を引用し、崩壊している米国中道政治の再構築のためには、今は廃れてしまっているこの考え方をいかに蘇らせるかを論議することが大切だと主張していました。翻ってみるとアメリカほどではありませんが、日本も相似形になっている現実があるように思うのです。

大ヒット漫画「チェーンソーマン」の原作者の半自伝だそうですが、45分の中編ということもあり、タイパを重視する最近の若い人に受け、回転率がよいということもあって、10億円超えの大ヒットだそうで、120分もの中心の日本の映画の製作方針に変革を迫ると報道されていました。でもそうした戦略だけでなく、「ありのままの姿で認め合う」原点回帰の要請が高まっていると思われる現代日本の深層に、よく届く中身の素晴らしさもあったのだろう。そんな風に思いました。

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