「深淵な58分間」ルックバック 赤ヒゲさんの映画レビュー(感想・評価)
深淵な58分間
事前情報ゼロだったので、冒頭のヘタウマな感じのアニメからぐいぐい引き込まれ、「なんだこれは!」と驚きました。新海監督のアニメもとても写実的で鮮やかな美しさがありますが、それとはまた違ったテイストで、とても身近な生活感のある描写に引き込まれました。天候が晴れから曇り、雨から雪へと変化に富んでいたり、朝、昼、夜という時間経過が風景の変化として丁寧に表現されていて、時の流れが無意識のうちに伝わってきたように思えます。そうそう、「となりのトトロ」(88)のあらゆるシーンがいきいきと描かれている感じとも似ている気がしました。劇中に主人公の藤野(河合優実)と京本(吉田美月喜)が描く四コマ漫画が出てくるせいか、それを描いている二人の世界がリアルに感じられました。構成に全く無駄がなく、緩急のバランスも絶妙で、58分間とは思えない濃密で深遠な映画体験でした。台詞もよく考えられていてハッとさせられるものが随所にあり、声の演技も「声優」とは違うトーンが作品の雰囲気を独特なものにしているように感じました。音楽も彼女たちの心情にしっくりくるものばかりで、あらゆるシーンが心の奥深くに染みてきました。先の展開が全く読めなかったのもよかったです。アニメ史に残る名作ではないでしょうか。
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