「世は繰り返される」室町無頼 サプライズさんの映画レビュー(感想・評価)
世は繰り返される
入江監督、最近勢いありますねぇ。
パッと思いつく映画は「22年目の告白」ぐらいであんまりいい印象はなかったんだけど、「あんのこと」で180度ひっくり返されてしまい、本作も期待値爆上がり。評判もかなり良かったからワックワクで行ったんだけど、今回も抜群の脚本力で流石だなぁと。
アクション面では物足りなさを感じてしまい、バイオレンス描写も半端で期待以上とはいかなかったものの、スピーディなストーリー展開と役者陣のガチ演技のおかげで作品にハリが出ており、135分の長尺でも一切飽きさせなかった。
大泉洋と堤真一は言わずもがな。それぞれ当て書きを疑ってしまうほどピッタリの人物像で、互いの相性も安心感を覚えるほど良かった。やっぱり大好きな2人。洋ちゃんは劉備玄徳からのギャップに萌えちゃうね。
今回特出したいのはこの2人ではなく、かえること才蔵を演じた長尾謙杜。想像を絶する表現力と運動神経。主人公もろとも食い尽くす勢いで、凄まじい演技力を見せてくれた。なんか聞いたことある名前だと思っていたら、なにわ男子のメンバーだったのね。全く分からなかった。そのくらいアイドルの雰囲気を隠し切って、みすぼらしい平民から兵衛の手下となるまで、見事に演じきっていた。前半と後半でまるで人が違う。これは今後が楽しみだ。
秀逸でセンスのあるセリフが多く、そんな言葉から蓮田兵衛という男の実態をしっかり描いていた。「人を下から見た姿はその人の10年後を表しているという。お前は10年後もキレイだ」というこのセリフ、蓮田が多くの人から愛された理由が詰まっているように思えてすごく印象深い。その時の松本若菜演じる芳王子もまたその言葉通り美しかった。
才蔵と戦って負けてしまった無頼たちが、どんな戦いで如何に彼が強かったを村の人々に向かって語ってみせているあのシーンもすごく心温まるし、本作の本質だと感じる。〈言葉〉の偉大さ。世の中伝言ゲームの繰り返しなんだよな。
税金が国民の大きな負担となり、不平不満が溜まっている室町時代。皮肉にも現代でも同じことが起きている。「今こそ立ち上がるべきだ。」その言葉は我々現代人に向けたメッセージのようにも捉えられる。「あんのこと」の入江監督というのもあり、ただならぬ重みと強さを感じる。
時事ネタを映画のレビューにぶっ込むのは如何なものかと思うけど、やはり今このタイミングでこの作品を映画化したことは何らかの意味があるだろうし、そう思わざるを得ない。このタイミングだったからこそ、すごく心に響くものがあった。映画の展開としては先が見えやすいし、物語の驚きも少なかったけれど、テーマ・メッセージには深く考えさせられるものがあった。
演出的なせいか終盤の戦闘シーンに思う存分ワクワクできず、なんだかもどかしい気持ちになってしまったが、構成や雰囲気としてはここ最近ではそう見られない魅力的な作りで、グイグイ引き込まれるそんな時代劇だった。
ココ最近の時代劇は注目されてばかりだから、この調子でどんどん未来を明るくして欲しい。ただ売れてないなこれは...観客合わせて2人だけだったぞ...。洋ちゃんパワーでも知らぬ人物が主人公はキツイかなぁ。