劇場公開日 2025年1月17日

「無法地帯の狂った様は見ごたえあるも・・・」室町無頼 asukari-yさんの映画レビュー(感想・評価)

2.0無法地帯の狂った様は見ごたえあるも・・・

2025年1月18日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

興奮

 室町時代を舞台に、世直しを図ろうと立ち上がった無頼漢を主人公とした時代劇。その世界と乱舞・そして狂ったシーンは他の映画にない見ごたえを感じましたが、自分としては高い評価をつけれない作品でした。

 室町時代に起きた「寛正の大飢饉」。餓死者は増え、京に浪民がなだれ込むも幕府は大きく手を打たず、農民たちは税と借金に苦しめられていた。それを見て嘆く無頼漢:蓮田兵衛は、弱い民を助けようと立ち回る・・・てな感じのストーリーです。

 まず、飢饉が生じ、土埃を顔に浴びながら苦しむ様と、それを意に介しない武士・金貸し・そして幕府重役の対比という、えぐいほどの差をいきなり見せつけられる。むしろ良い。上級国民と下々の民の違いが一揆を引き起こしかねないと上手く描いている。そして、一揆で起こる笑い・踊り、嘆きが一か所で起こるシーンはホンマに見物。法的に整えられた現代では考えられない狂気がそこにあり、「この世が狂っている」と肌で感じてしまう。これはただの娯楽映画には終わらない。もちろん、乱舞や一揆のシーンも見ごたえがあり面白いのだが、背景として歴史の恥部を見せる事をきっちり描くことによりリアルが十分感じ得る、説得力ある見事な描写と思う。

 しかし、音楽が全然合わない・・・。

 1シーンのみで切り取ったならまた違った視点で感じるんやろう。しかし本編を通して一貫性のない音楽は、見応えを思いっきり削ぐには十分すぎた。重たさを感じる音が奏でられたと思ったら、違う場面ではポップな音が出るとか。和食のフルコースでハンバーガーやカレーライスをいれるような感じか。んなもん酒と合うかいと感じるような不協和音だ。映画音楽は映画が誕生した時から演出に重要な要素として取り入れられてきたが、そういう意味では大きくダメにしてしまったと自分は思うています。

 また、これも個人的意見ですが、大泉洋、悪くはなかったが、時代劇としてはどうか?

 自分としては、時代劇、娯楽だけでは終わらないような感じの作品であればやはり役者の“重さ”が大事であると考えています。大泉洋も良い演技はしていたとは思いますが、そういう意味ではまだ軽い。主役を張るにはなにか物足りなさを感じてしまいました。逆に悪友の役で出てきた堤真一はまさにそれ。“重さ”を十分に感じさせるその演技は、主演を喰ったといっても過言ではない。また、主役の手下になった役で出演している長尾謙社も見事。若いながら“格”が見え隠れするような演技は今後期待か。

 無法地帯のような狂った時代と、それに抗う人の様を上手く描いた時代劇だとは思います。しかし、とにかく音楽という演出が本作の点数を大きく削いだ原因であると自分は思ってしまいました。非常に残念。また、やはり娯楽だけではない時代劇の主役には“重さ”が必要やなと改めて感じてしまいました。ただ、人によっては「娯楽作」と思う人がいると思います。そういう方にはお勧めできるかなと思います。

asukari-y