「一度やったら、二度も三度も...。」Cloud クラウド サプライズさんの映画レビュー(感想・評価)
一度やったら、二度も三度も...。
すっごい好き。黒沢清ナンバーワン。
変な映画ではあるけど、これまでの黒沢映画と比べるとアクが少なく、癖も控えめ。若手俳優を筆頭に、日本映画を支えるバイプレイヤーが勢揃いしており、いい意味でも悪い意味でも黒沢清らしさが薄めの、大衆向け映画になっている。
ただ、これまで見てきた「クリーピー」「スパイの妻」「蛇の道」の3本全てハマらなかった自分からしたら、大満足の作品だった。一方で、これまでの黒沢映画が好きなファンからしたら物足りないのかも。結構ポップでエンタメに振り切った作品になっているから、特有の闇はあまり感じられなかった。でも、これがいい。
恐怖が淡々と迫ってくる、緊張で心臓が小さくなるような演出は今回も健在。この演出だけは黒沢映画で変わらず好きなところだし、いつも変えずにやってくれるところ。実はここが好き嫌いわかれる原因でもあって、いつまで自主制作みたいな映画撮ってんだ!と言われるのはここにあると思っている。
黒沢監督はほとんど音楽を使わないし、そこにカメラがあっただけみたいな、突拍子もないリアリティを求める人。でも、これこそ映画だと思うし、私生活に支障をきたしてしまうような気迫こそがこの人の最大の良さだと思っている。それが今回は更に濃く現れていて、おかげでこれまでに無いくらいハマることが出来た。
アウトレイジ的に言えば「全員、狂人」。
豪華キャストのアンサンブル。とにかくみんな狂っていて、シュールな恐怖になんだか笑っちゃう。何やってんだ全くと少し呆れながらも、みんな全力で演技を楽しんでいてずっと見守りたくなる。しかも時間が経過する度に、頭のネジが緩まっていくようにして狂気じみてくるから、2時間ちょっと常に上り坂でとにかく楽しい。「キングスマン」の教会のシーンを想像してもらったら分かりやすい。だけど、そんな中にも人間臭がしっかり残っているから、なんだかんだで全員愛おしく感じちゃうんだよね笑
かなり銃撃戦。後半ずっと銃撃戦。
結構こだわりがあるんだろうけど、舞台が日本となるとリアリティは激減するし、銃を扱うことを納得させるような要素もなく、長すぎることもあって若干退屈した。本作はここで評価が分かれるだろうな。
ただ、奥平大兼が黒澤監督の雰囲気とめちゃくちゃマッチしていたのは意外だった。この映画で一番のハマり役は彼。他のキャストと比較するとセリフ量は少なく、大々的に画面に映るわけでもないんだけど、菅田将暉以上のインパクトですっごい爪痕を残していた。特に後半からはヤバい。あまりにイケてる。
主人公の吉井は銃を手にした時にあたかも初めて罪を犯したような顔をするけど、二度三度と回数を重ねる度に感覚が麻痺していき、罪の意識は徐々に薄くなっていく。まさに、転売ヤーという職業そのものを暗示させる表現。慣れって怖い。当たり前って怖い。一番狂っているのは自分自身だと、まだ彼は気づかない。
周りの評判通り、変な作品だったけど、監督の意図しているようなメッセージは珍しく受け取ることが出来たし、満足度がかなり高かった。ただ、流石に高額買取してくれるからって客のことを見限っては信頼も地の底ですぞ、おもちゃ屋のおっさん...。