劇場公開日 2024年9月27日

「【今作はある青年が楽して稼ごうと行った事が、SNSにより繋がったお互いの名も知らぬ人達の心を揺さぶり惹き起こす凶事を描いた作品である。黒沢清監督ならではの乾いた世界観に戦慄する作品でもある。】」Cloud クラウド NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0【今作はある青年が楽して稼ごうと行った事が、SNSにより繋がったお互いの名も知らぬ人達の心を揺さぶり惹き起こす凶事を描いた作品である。黒沢清監督ならではの乾いた世界観に戦慄する作品でもある。】

2024年9月29日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

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知的

■楽して稼ごうと、人の道を外れ転売を繰り返す吉井(菅田将暉)が開いた転売サイト”ラーテル:最強の哺乳類)は着実に利益を上げるが、彼の似非製品を買ったが故に、全てを失った転売屋達や、元勤務先の会社経営者(荒川良々)は吉井を殺すために、お互い素性も知らないのに結託し、壮絶な殺し合いに発展していく。

◆感想<Caution!やや内容に触れています。>

・黒沢清監督の前作「蛇の道」のレビューにも書いたが、黒沢清監督は邦画には稀なる乾性に満ちた作品をオリジナル脚本で製作する極北の作家性を持った監督だと思っている。
 海外で言えば、人の道を外れるような作品を作り続けながらも評価が高い、ランス・フォー・トリアー監督や、ミヒャエル・ハネケ監督の風合に近いと思う。

・故に、黒沢清監督作の多くは不穏な雰囲気が漂い、展開は不条理極まりなく、人はモノのように扱われ、何の容赦もなく殺される。

・今作でもそれは同様で、謎多き恋人(古川琴音)だけが吉井の味方と思っていたら簡単に裏切られ、逆に彼が雇ったアルバイト佐野(奥平大兼)が、殺しのプロ組織と繋がっていて吉井を助けるという展開なども実にアイロニックである。

・そこには、日本的な情緒溢れる湿性感は皆無であり、只管に乾き切った殺し合いが展開されるのである。
 アイロニックなのは、一番乾いた心を持っていると思われた吉井が、悪意溢れるSNSで繋がった人達に襲撃される時の表情である。
 ”ラーテル:最強の哺乳類”という転売サイトを立ち上げながら、恐れおののき逃げまわり、自身の身に起きた理由も分からない姿からは、”楽して、人の痛みを感じる事無く、金を稼ぐ。”ことに対して全く無自覚な吉井の人間性に対しての、強烈なる揶揄が感じられるのである。
 それは、彼によって全てを失い自暴自棄になった彼を殺そうと襲って来た人たちにも言える事であるが・・。

<今作は、”最強の哺乳類”が楽して稼ごうと行った事が、SNSにより繋がったお互いの名も知らない人達の心を揺さぶり惹き起こす凶事をアイロニックに描いた作品である。
 そして、黒沢清監督ならではの乾いた世界観に戦慄する作品でもあるのである。>

NOBU
トミーさんのコメント
2024年9月29日

共感ありがとうございます。
アナザークロサワの持ち味はウェットかと思いましたが、今作はカラカラをかんじましたね。自分は拉致されたヨシイの様子もちょっと普通じゃないと思います。命乞いしないし失禁も、普通バーナーとかちらつかされたら・・。

トミー