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映画レビュー
失れたものを悼み、明日への心を整える。詩的な情景と優しいピアノが染みる珠玉のロードムービー
「孤高の映像作家 坪川拓史監督特集上映」を前に、本作を観る機会を得た。主人公のピアノ調律師・太田(塩野谷正幸)は、友人が営む古美術店に居候している。妻を亡くしたせいか寡黙でほとんど感情を表さないが、出張先で軽口を叩いた男の客に珍しくカッとなって胸ぐらをつかんだ後、取り繕うように冗談めかして調律ハンマーを男の額に押し当て「調律しちゃうぞー」とおどす。ユーモラスな序盤の一幕ではあるものの、喪失感で不調になった太田自身の心が、人形使いの手放したピアノを探す旅を通じて“チューニング”されていく後半の展開を示唆しているようでもある。
小松政夫が演じる老人形使いの亡き後、その娘を名乗る伽子が現れ、車での旅に同行することに。伽子役の高橋マリ子の儚げな佇まいが映画の空気感に大いに貢献している。
そして、本作の大きな見所でもある、旅の道すがらの美しい風景の数々。エンドロールの撮影協力欄から地名を拾い出してみると、長野県の信州上田、青森県の弘前と高山稲荷神社、北海道の十勝、函館市、長万部、室蘭市、白老町、大樹町、上士幌町、鹿追町などなど。実際に巡ったら大変な旅程になるはずだが、居ながらにしてあちこちの絶景を楽しめるのだからロードムービーはありがたい。
ピアノが重要な役割を担う点で、「バグダッド・カフェ」や「ピアノ・レッスン」を思い出す人も多かろう。これらの映画がお気に入りなら、坪川拓史監督の「アリア」もきっと好きになる。