「嘘は自分を救うためにつくものだが、そのほとんどはいずれ自分を苦しめる枷になる」かくしごと Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
嘘は自分を救うためにつくものだが、そのほとんどはいずれ自分を苦しめる枷になる
2024.6.11 イオンシネマ京都桂川
2024年の日本映画(128分、G)
原作は北國浩二の小説『嘘(PHP文芸文庫)』
ある虐待児を保護し、自分の子どもとして育てようとした絵本作家を描いたヒューマンドラマ
監督&脚本は関根光才
物語の舞台は日本のどこかの田舎町(ロケ地は長野県伊那市&神奈川県相模原市)
東京にて、絵本作家として実績を上げていた千紗子(杏)は、父・孝蔵(奥田瑛二)の認知症進行の影響で実家に戻ることになった
期間は1ヶ月程度で、介護認定が降りて、施設に入れられれば東京に戻るつもりだった
だが、父は千紗子のことを覚えておらず、認知症は思った以上に進んでいた
地元の医師・亀田(酒向芳)のことはかろうじて覚えているようで、千紗子は亀田から「今後起こり得る症状」についてアドバイスを受けることになった
荷解きが落ち着いた頃、千紗子は地元の親友・久江(左津川愛美)と飲みに行くことになった
だが、久江の息子・まなぶ(番家天嵩)が問題を起こしてしまい、急いで帰らざるを得なくなった
久江は飲酒しているのに運転すると言い出し、心配になった千紗子は同乗する
何の問題もなく目的地に向かっていたと思っていた矢先、大きな音と衝撃が二人を襲った
慌てて車を降りた二人は、車の前に少年(中須翔真)が倒れているのを発見する
久江は動揺し、緊急通報しようとする千紗子を制ししてしまう
やむを得ずに家に連れ帰ることになった二人だったが、その少年の体を調べていると、無数の虐待を疑わせる傷があり、足首にはロープが括られていた
物語は、この少年が川で流されて行方不明になった犬養洋一であることが判明するところから動き出す
千紗子は親元に返すことに躊躇いを見せ、そして福祉課である立場を利用して、久江に少年の両親の情報を調べさせる
そして、調査員のふりをして、どんな両親かを確かめに行く
洋一は母・マキ(木竜麻生)の連れ子で、再婚相手の安雄(安藤政信)から虐待を受けている様子だった
二人にはすでに娘・ひとみ(演者不明)がいて、二人は碌な捜索もせずに、東京に帰っていた
千紗子はこの親元には返せないと確信し、少年を自分の子どもとして育てることを決めるのである
映画は、この千紗子の行動の是非を問うというテーマがあるものの、根底には「親子の呪い」について描かれていた
千紗子と父の関係は「嫌な思い出」を巡るもので、千紗子には亡き息子・純(齋藤統真)との過去から、少年を自分の息子の代わりにしようと考えている
少年自身も、連れ子による立場の悪化と虐待に苦しんでいて、千紗子との生活はこれまでのものとは異質のものになっている
見つからなければうまくいったかもしれないように思えるが、無戸籍のまま少年が成人できるはずもないので、冷静に考えれば無茶であることはわかる
千紗子はいつまで少年を息子と重ねられるかというものもわからず、いずれは何らかの要因で破綻していたと思うが、映画における綻びの起点は少々無理があるように思えた
いずれにせよ、本作は「それぞれがどんな嘘をついてきたか」ということがメインになっていて、父がついた嘘(娘を認識していたが無視した)、千紗子の嘘(息子と思い込ませた)などがある
だが、「記憶喪失は嘘だった」という少年の言葉以上に衝撃的なものはなく、そして、そのあとに続けられた言葉は、本作の中で唯一の真実だったように思えた
千紗子はこの言葉で報われたと思うが、誘拐の事実は覆せないし、その他にも多くの罪が付随している
少年が千紗子の元に来ることは不可能に近く、彼が成人してからならば接触の可能性は残されているかもしれない
彼が不安定なシングルマザーの元に戻っても、彼女では子育ては無理だと思われるので、いずれは施設などに入って、里親を探すことになるのだろう
千紗子はその候補には入れないし、どんな里親が来ても、彼の中にある「母親」というものが上書きされなければ、明るい未来には繋がらないだろう
そう言った意味において、千紗子の行動は罪深いものだったと言えるだろう