劇場公開日 2024年11月1日

「リアルなホラーでなく、移民問題を暗喩した社会派スリラーとして観られるべき映画」スパイダー 増殖 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5リアルなホラーでなく、移民問題を暗喩した社会派スリラーとして観られるべき映画

2024年11月6日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

怖い

ジャンル的にはモンスターが人間を襲うパニックホラーになるだろうが、科学的な観点や登場人物らの言動については気になる部分、腑に落ちないところが多々ある。外敵が人間の環境にクモが適応進化したからといって、たった1匹から1日程度であれだけの数に増殖するには繁殖サイクルがせいぜい数時間でなければならないし(実際には特に繁殖が速いハエの仲間でも1サイクルは10日~2週間程度)、個体が大型化するにも栄養価の高い餌を大量に摂取して超高速で消化し体を形成する必要がある。爬虫類やクモなどの節足動物の生態と飼育に詳しいはずの主人公カレブにしては、有毒かもしれない未知のクモを雑に保管して毒グモ大量発生の元凶を作る(カレブは爬虫類園を作るのが夢だが、そもそもクモは爬虫類じゃないし!)。最初の犠牲者が出て原因不明のうちに建物が封鎖されるが、住民たちは携帯電話もネットも使えるのに毒グモ被害を行政やマスコミなどに必死に訴えることもしない。たとえ出口がすべて封鎖されたとしても、普通の集合住宅なのだから2階や3階の窓から飛び降りて脱出しようと試みる住民が皆無なのも変。

本作で長編デビューを果たしたセバスチャン・バニセック監督が語るように、都市郊外の公共住宅などに多く住む移民や低所得者らへの差別が、暗喩として本作に込められている。そうした人々を、外見だけで忌み嫌われるクモでたとえたという。原題の「Vermines」はフランス語で“害虫”を意味する。外国人の移民や難民を社会の害虫や寄生虫のように見下し、問答無用で排除すべしと主張する人々が一定数いるのもフランスに限った問題ではないだろう。そうした含意を念頭に置いて鑑賞すると、見え方もまた少し変わってくるかもしれない。

余談めくが、舞台となった印象的な設計の建物は、パリ郊外に実在するピカソ・アリーナ(Arenes de Picasso)という集合住宅。巨大な円柱状の構造部分は地元からカマンベールと呼ばれているそう。マニュエル・ヌニェス・ヤノフスキーというスペイン人建築家が設計し、建築好きにはかなり知られた建物らしい。グーグルマップで「ピカソ・アリーナ」と日本語で検索してもちゃんと表示され、航空写真の3D表示を選択してぐるぐる回転させて眺めると面白いです。

高森 郁哉