「想定外の掘り出し物に出会う幸福」ネネ エトワールに憧れて LukeRacewalkerさんの映画レビュー(感想・評価)
想定外の掘り出し物に出会う幸福
※2024/11/25にSNSに投稿したものを再録します。
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いわゆる健康診断のために行った恵比寿ガーデンプレイスで、せっかく外出したのだからと久しぶりに映画を観た。
ちょうど検診の終了時刻と夕食までのあいだに1本観られそうだから、かつ、珍しく恵比寿にある映画館で観ることができるので、というだけの理由だった。
恵比寿ガーデンシネマなんてあったのか。その程度の認識。
掛かっているものを見ると、ヒューマントラスト系やTOHOシャンテ系のちょっとヒネたものばかりのようだ。
この映画も「映画ドットコム」でさらりと概要を見たが、何となくあらすじは読めてしまって、それほど期待せずにチケットを買った。
要は、白人芸術の牙城であるパリ・オペラ座のバレエ学校に合格「してしまった」黒人少女の奮闘、なのですが・・・。
当方、クラシック・バレエにはほとんど興味はないし・・。退屈で凡庸なドラマだったらヤダな・・・。
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低所得者層の住む団地から底辺の公立小に通っていたネネ(12歳)。
しかし同時に合格した同級生は、おそらく富裕層で2~3歳からバレエを習い始め、すでにいくつものコンクールで入賞や優勝してきたようなエリート少女たち。
使う言葉さえ違う(恐らく。たぶんフランス語ネイティブの人ならわかるんだろうな)。
それに、冒頭で少女たちが自己紹介をするショットがスピーディに重なるが、住所(「第◯区です」)もパリの中でも高級住宅街なんだろう、と勘で思う。たとえば東京なら「田園調布です」とか「番町です」とか言っているみたいに。
そんな完全アウェイのネネだが、天賦の才能があると同時に、何よりもバレエ学校の校長、かつての"エトワール"(プリマドンナ?)だったマリアンヌへの強烈な憧れから、彼女の現役時代の舞いを動画ですべてコピーしてくるほどの努力をしていた。
しかしまぁネネの無邪気とは言えいささか高慢な自信と、周囲の白人の子たちの陰湿なイジメの凄いこと。
何より、マリアンヌ校長自身が「白人バレエの伝統を守る」と公言し、レイシスト丸出し、差別丸出しなのだ。それに呼応するパワハラ系教師。
こんな公然とした差別はいくら何でも許されないだろうとは思うのだが、やはりヨーロッパだからか、伝統の名のもとに教員会議でもそこそこ渡り合ってしまう。
「ニューヨーク・シティ・バレエなら『多様性』もOKかもしれないけれど」っていう校長のセリフには唖然とする。
それって、けっこう公然とアメリカのバレエと多様性を見下している。
でも、「団長」(要するに校長とは異なる理事長みたいなものか)や他の教師たちはネネの才能を見抜き、人種や肌の色に関係なく彼女の成長に期待する。その公平で良心的な擁護は観ていてほっとする。
ネネの両親、特にお父さんの無骨な優しさと娘への無償の愛と期待も沁みる。
しかしネネと校長の確執、軋轢はだんだんエスカレートしていき、ついにネネの言動が原因で退学処分を審議されるところまで行ってしまう。
が・・・。
ここからがすごかった。
驚天動地の展開には本当に虚を突かれた。
そして、久しぶりに映画らしい映画のストーリーテリングの巧みさに唸り、酔ったとまで言いたい。
何も派手な伏線とか回収とかではないのだが、ネタバレにならぬよう一言で言えば、レイシストの女校長の秘密と深い哀しみである。
こうしてみると、この物語の本当の主人公はネネではなく、途中まで憎たらしくて仕方がなかったこの校長のようにも思えてきてしまう。
深い。うーん、深い。
良い映画を観ました♪
