「社会問題に切り込み、生々しくパワフルなラジ・リ演出」バティモン5 望まれざる者 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
社会問題に切り込み、生々しくパワフルなラジ・リ演出
相変わらずラジ・リ監督の紡ぎ出す物語は、観客がその場の喧騒に巻き込まれているかのような臨場感に満ち、絵作りも非常に生々しく、パワフルだ。移民家族が数多く暮らす居住棟エリア「バティモン5」を舞台に、行政と住民が両極に分かれて怒りの感情を衝突させる様を、明確な対立構造とマクロとミクロの目線で炙り出した本作。血も涙もなく政策を推し進める臨時市長と、住民らの状況を見るに見かねて動き出した代表者という、両陣営を率いる二人を旗印にした人間ドラマもスリリングに展開する。ただ作品的にどうしても住民目線になりがちで、臨時市長があそこまで頑なに政策を断行しようとした心理や背景についても知りたかった・・・と言うのは欲張りすぎだろうか。ともあれ、この監督の今後への期待は本作でも高まるばかり。パリ郊外(バンリュー)に依然として残る深刻な社会問題に関して知識を深める上で欠かせない現代の神話とも呼ぶべき一作と言えよう。
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