ありふれた教室のレビュー・感想・評価
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ラストの切れ味と余韻がいい
バビロン・ベルリンのグレータ主演ってことで。子どもたちが窃盗犯だと疑われる状況に対してカーラが職員室でとった行動が波紋を呼び、すべて子どもたちのために、教育者として正しいと思ってやったことがどんどん裏目に出て悪夢のような状況に追い込まれていく…
カーラがあの白い服の幻想をみてしまったようにすべて悪い夢みたいなものだと思う。ラストのオケの真夏の夜の夢がそれを強調している。あんな形で締めくくられるこの作品は一種の悪夢を描いていると思う。善意だろうがなんだろうが問答無用に、気持ちを踏みにじられ誇張され孤立していく悪夢は十分「ありふれた」話だ。残念ながら。でも、この作品に関してはカーラが苦しみながらとっていた態度や行動からは一種の希望を感じた。オスカーはカーラが作ったこの状況に興奮し激昂していながらも、カーラの教育者としての側面にちゃんと触発されてる。そのシーンのうまさと切れ味に、ちょっと唸ってしまった。
私は一体どうしたら良いんだ…
その場にいないのにずっとそんな風に考えちゃって胃が…
そしてそんなこと考えあぐねてなにも行動に移さない内にあれよあれよと事態がコロコロして…
私は…俺は…ムリョクダ…(; ;)
子供も教師も全員の一つ一つの言動を、同じ立場なら私もしてしまいそうと思える妙があり、様々なシーンの空気感がリアルで身につまされる感覚を休まずずっと味わいました。
生徒に怪しい人を聞くのがそんなに悪いことか?
抜き打ちテストがそんなに?
盗難問題解決のための録画が?
新聞で真実(多分)を暴露するのが?
というテンションで私も「やれー!やるぞー!」ってなりそう。
この映画では俯瞰して見てる立場だから「一度立ち止まれ?」って思えるけど、問題の渦中に居るとアドレナリン的物質が生成されるんですよね…分かる…
何の問題も解決しないけどそれがやはりリアルで良いですね。
しねーのよ、解決なんて。しねーの。
だから今すぐ警察呼んで国家権力で思う存分監視カメラつけまくって尋問しまくって。
盗難は犯罪だから。
学校だけで解決しようとしないで国家権力に頼って。
まあ盗難事件に目を向けるとモヤモヤエンドですが、「お金が盗まれたときに問題なのは金額ではなくその行為そのもの」である通り、この映画の主題は盗難事件ではなくそれをきっかけに試される人間力なんでしょうな。
エンド直前の二人きりの教室、なにも明確なことはありませんけど…
カーラの「こんな展開は望んでいなかった」を受けて、何かノートに書いたものをうけて、カーラから託されたルービックキューブのアルゴリズムを解読したみたいに、二人でこの問題のアルゴリズムを解読したんだろうなと信じます。
明らかにオスカーの勝利を宣言するラストカットでしたけど、オスカーに水を渡して見つめるカーラからは敗北や絶望を感じませんでした。
オスカーも母親のために立ち上がったようなものなのに、着信には答えないし…
そもそもオスカーVSカーラではなく、集団に追い詰められた2人VS生徒や教師陣だったのかも。
こういう考察は普段人任せですが、オスカーは学校という権威に勝利し、カーラは教師として納得のいく"解答"に辿り着いたんだと信じる。信じます!
善という名の不寛容
銀座の某老舗映画館で珍事が起きた。館内照明の不具合によって、映画冒頭2度にわたって上映が中断されたのである。観客数も少なかったせいか特に文句をたれる輩も現れず、無事最後まで鑑賞することができたのだが、(自己の寛容性を問われるという意味で)この現実に起きた事件がまさか映画の内容にリンクしていたとはねえ、不思議なことも起こるものである。
トルコ系ドイツ人のイルケル・チャタク監督が少年時代移民の子供として経験した出来事が本作には反映されているという。84年生まれのチャタク監督が中学生だった頃は、まだクラスのなかで移民は監督一人だけだったという。この映画同様、クラスの中で盗難事件が起きたりすると真っ先に疑われるのは、肌の色が違うチャタク監督だったらしい。そんな子供時代に感じた人種差別に対するなんともいえない不快感を反映させた映画だそうな。
ハネケの『白いリボン』(2010)や『ペルシャン・レッスン』(2022)で、チクリ系女子役がはまっていたレオニー・ベネシュが演じるのは、ポーランド移民2世であるノヴァク先生だ。チャタク少年の中学生時代とは違って、ノヴァク先生が担任を勤めるクラスは、今やゲルマン純血の生徒を探す方が難しいほど移民の子供が大半を占めている。あのパルムドール作品『パリ20区、僕たちのクラス』(2010)と同じ設定だ。
その教室ならびに職員室でおきた盗難事件を巡って、移民の子供やその親の職員が疑われたからさぁ大変。密告、監視カメラ、検閲、監禁...EUの寛容を旨とするグローバリズム精神はどこへやら、ここドイツのみならず右翼が政権を奪取しそうな勢いのフランスでもノヴァク先生のクラス同様の疑念と不寛容が渦巻き、EU内の雰囲気はきわめて悪くなっていると、ジャック・アタリが諦め顔でつぶやいていた。
要するにこの映画に描かれているのは、ドイツいなEU全体における社会の縮図なのである。
0.999…=0.111...×9
0.111…=1/9
1/9×9=1
∴0.999...=1
この無限級数命題をすらすらと解いてみせるオスカー少年は、おそらくドイツ系女性と移民の父親との間に生まれたハーフ(0.999…)。これを無限に繰り返すとその内自然と、ドイツ人(1)に限りなく近づいていくということを、多分いいたかったのではあるまいか。
しかし、ポーランド移民の子供であるノヴァク先生の場合は違っていたのである。話す言葉はすべてドイツ語、生徒たちに全体主義的グーテンタークを半ば強制、パソコンを利用した監視カメラ、証拠ありの密告、そして監禁という、まるで第三帝国を彷彿とさせる“アルゴリズム”に則った不寛容な態度をとれば、私のような移民の子供でもドイツ人としてちゃんと認めてもらえるのではないか。生真面目なノヴァク先生はおそらくそう考えていたと思うのである。
そんなこといったって俺たちゃ肌の色も考え方も全然違うんだぜ、ときっちり(肌の)色分けされたルービック・キューブをノヴァク先生の前に放りなげるオスカー。つまり本作は、生徒や教職員のみならずPTAまでまきこんだ窃盗事件をめぐる大騒動を、欧米最大の問題と見なされている移民問題の寓話として描いた映画なのだ。犯人は結局誰だったのかって?私は“善という名の不寛容”が真犯人だと思うのだが、はたしてどうだろう。
こんな嫌な雰囲気が終始続く作品も珍しいのでは?
学校の先生の大変さが痛いほど伝わる作品でした。
学校での盗難事件から端を発し、
主人公が自分のPCの動画録画機能を職員室内でONにしていたところ
犯人らしき人物がうつっており、そこからのコンフリクトがこの映画の始まりです。
主人公も生徒を守りたい一心で、この愚挙に出ているのですが(気持ちはわかる!)
これが裏目に出続け、負の連鎖を生んでいくんですね。
特に中盤に生徒から反発される展開は
本当に胸が痛くなりました。
「先生にあわせてあげてたんだよ」って言われた日にゃ、もう立ち直れないレベルで
傷つきますよ、先生は。
予告編で主人公がシャウトするシーンがあるのですが、
本編では私の予想とは異なっていて、
つらい場面ではなく、むしろ良い場面だったので、ちょっぴり安心しました。
ミステリー要素がありながらも、
結局はグレーなまま完結するのですが、
ラストもちょっとだけ光が見える終わり方だったので、鑑賞後観はさほど悪くありませんでした。
なにはともあれ、学校の先生にはリスペクトしかないです。
人間として素晴らしいが高学年の教師としてはどうだったか
主人公が教えてるのが何年生か分かんないんだよね。
でもけっこう子供だましみたいなことやってるから、低学年なのかなと思うの。
そうかと思うと 1 = 0.99…… を証明させたりしてるしね。
この「高学年の教師として、力不足では」っていうのが、物語全体に効いてる気がするの。
高学年の教師としてクラス運営できる力量があったらね、ビハインド局面でもなんとかまとめきれたんじゃないかな。父母を味方につけることもできたんじゃないかとか。
校長も弱いね。事態に対処できないの。
学校新聞が振りかざすヘンテコジャーナリズムも風刺が効いてる。
偉そうなことを言いながら、結局、売れて金が儲かればいいんだろっていう。
同僚教師も学校新聞に名指しで批判されると、突然冷静さを失って怒っちゃうしね。
物語中でうまいと思ったのはカンニングする生徒を登場させるところ。
生徒は「カンニングしてました」って認めないんだよね。でもこれはハッキリやってる。
だから、仮に悪いことしていても、悪びれずに「やってない」と言う人が当たり前の世界になってるの。
なので、本当にお金を盗んだ人は誰なのか、余計に観てる方はグラグラしちゃうの。
ラストは「先生の方を信頼します」ってことなのかなって思ったな。
人間としての素晴らしさが伝わった感じ。
全体に「誰が悪いともいえない」っていう状況を描く事情設定のバランスがすごくうまいと思ったの。その中で最後までブレない主人公がすごかったよ。
ドイツの教育って良いな、って思った。
正義感の強い教師のカーラは、赴任した中学校で1年生のクラスを受け持っていた。しばらくした頃に、校内で盗難事件が続き、カーラのクラスの生徒が疑われた。校長らの任意の事情聴取で仲間を売るようなやり方に違和感を持ったカーラは、独自に犯人捜しを開始し、自分のPCで職員室を撮影した映像に、中学の職員でオスカーの母と同じ服を着た人物がカーラの上着からお金を盗む瞬間の動画が映っていた。しかし、この盗難事件でのカーラや学校側の対応は、保護者の批判や生徒の反発、といった事態へ進んでしまった。そして、カーラは次第に窮地に追い込まれていき・・・さてどうなる、という話。
ドイツの教育って詰め込みじゃないみたいで、生徒の自主性や自由な発想を引き出そうとしてる事に素晴しさを感じた。
せっかく動画撮影するなら、もっと広角で設定してたら良かったのに、確かに服だけじゃ弱いかも、とは思った。
ラスト警官が椅子から離れようとしないオスカーを連れて教室から出ていったのだろうけど、で、どうなったんだろう?
学校は社会の縮図。移民が増えているドイツならではの複雑なコミュニケーション
まさに、現代のドイツの日常を生々しく描いた作品。脚本がとても上手い。意図していない方向に物事が転がっていく様を見事に描いていて、しかもとてもリアリティを感じる。とにかく生徒の気持ちを一番に考えているとても良い先生なのに…。でも悲しいかな、こういうことって、有りがち。学校新聞がゴシップ記事を書き、報道の自由を口にするいっぱしのジャーナリスト気取りの生徒達に、現代のSNSを見た。怖っ。
ありふれているのか…
中学校にてお金が無くなる事件が頻発し、こっそり動画を撮ったらそこには驚きの真実(?)が…
対応に迫られる教員と不信感を抱く生徒保護者達の姿を描いた作品。
先生という難しい仕事の残酷さをこれでもかと表していますね。皆の言ってることもわかるが、こうでもしないと解決はできんよな…。
生徒のことをどこまで疑ってよいものか。
信じてあげるのも大切だが、それを愛と感じるほど子どもって純粋ではないと思ってしまうが…。
んで、何か行動を起こせばすぐに吊し上げ。保護者同士のグループSNSとか怖いよ。
そんなこんなで窮地に立たされるカーラ。先生達も一枚岩じゃないし、それぞれに問題があるようにも見えるし。
やり方が正しいかどうかは置いておいて、カーラは立派ですね。あそこまでされてそれでも守ろうとするんですから。
本来は盗った奴が100%悪いに決まってるのに、この仕打ちはあんまりですよね。
終わり方がかなり好みではなかったのが残念だけど、決して長くない尺の中で生徒それぞれの存在感や先生達の出番もバランスよく、終始ヒリヒリさせられる良作だった。
嫌な映画だけど惹きつけられてしまう
良かれと思ってしたことが仇となって帰って来るとは、何ともやりきれない思いにさせられるが、カーラのような正義が”ひっくり返る”ということは実際にままあるように思う。結局、その正義が本当に正しい物なのかどうかという判断は、当事者ではなく周囲の人々や社会が下すものなのだろう。
そういう意味では、今回の容疑者が頑なに罪を認めようとせず、その状態のまま学校側が一方的に断罪してしまったことは大いに問題があると思った。本来であれば冷静になって話し合いの場を設けるのが筋なのだが、余りにも感情的になってしまった結果、カーラと容疑者の間には深い溝が生まれてしまった。
また、この一件が学校中に知れ渡ってしまったのも問題だろう。生徒たちの間に不信感が生まれ、そこから保護者へ、更には教員同士の疑心暗鬼を生み、もはや盗難事件どころではなくなってしまった。
こういうのは初手をミスると、どんどんドツボにハマってしまうから恐ろしい。
正直、観てて終始嫌な気分にさせられる映画なので、万人には決してお勧めできない。しかし、この物語の根底には人間の愚かさや弱さが流れており、そこに惹きつけられてしまうのも事実だ。自分は終始画面から目が離せなかった。
監督、脚本は本作が長編4作目という作家である。長編以前には短編をたくさん撮っており、キャリア自体は結構長いようで、演出はかなり手練れていると感じた。
リアリズムを重視したストイックな語り口と軽快なテンポ、全編学校内で展開される物語が閉塞感や緊張感を上手く醸造していた。
また、中盤でカーラの心象を表すシュールなシーンが登場するが、ここは本作で唯一幻想的なタッチで表現されている。とは言っても、全体のリアリズムから変に浮くようなこともなく、このバランス感覚も絶妙だと思った。
更に、キーアイテムとしてルービックキューブを持ってきたのも面白いと思った。最初は突然出てくるので少し不自然に感じたのだが、要は”答えを出すことの難しさ”ということを暗喩しているのだろう。そのメッセージはカーラからオスカーに宿題のように託され、最後に思わぬ形で返答される。
印象に残ると言えば、エンドクレジットへの導入も見事で、思わず声が出てしまった。オスカーのカーラに対する、あるいはカーラを含めた大人たちに対する”宣戦布告”のように思えた。
もう一つ、本作で特筆すべきは音楽ではないかと思う。もはや、音楽と言うより効果音と言ってしまった方がシックリとくるのだが、これが全体に不穏なトーンを持ち込んでいることは間違いない。
ますます子供が嫌いになる
教員なんて、なるものじゃない(笑)
「熱狂×驚愕×賞賛の嵐」とか、「今観るべき衝撃の…」とか告知媒体には勇ましい宣伝文句が並んでいて、また騙されたかな?と一抹の不安を感じておりましたが、噂に違わぬヒリヒリする緊張の99分。
大傑作とは言いませんが、ちゃんと定価を払って観る価値のある佳作だと思います。
日本で言うと中学1年生程度の子供たちを預かる新任女性教師が、校内で起こった連続盗難事件をキッカケにちょっとしたボタンの掛け違いから窮地に陥れられる…言ってみれば一種の「恐怖映画」ですね。
人も殺されないし、派手な暴力もレイプも、ハラハラするカーアクションも何もありませんが、とにかく画面に釘付け。怖い怖い。
誤解や想いのすれ違いや行き過ぎた正義感が絡まると、組織がここまでこじれるのか、いや自分の職場でも全く起こり得ない話でもないなと我が身に置き換えたら更に怖くなります。
主人公の心情を表すような不安定なカメラワーク。
神経を逆なでするような弦主体の劇伴が効果的。
ノヴァク先生を演じるレオニー・ベネシュという俳優さん、もちろん初めて観る方ですが、ギリギリで正気を保っている新任女性教師をとてもリアルに演じていて素晴らしいです。
結末は観ているものに委ねる系のラストシーンで、おやっコレで終わっちゃうの?と最初は拍子抜けしましたが、テーマを観客にしっかり考えさせるには、こういう終わり方もありかな?とも思います。
今年観た映画で5指には必ず入るであろう素晴らしい作品でした。
あと、学生時代二十歳くらいまでは教員にないたいなぁ…とわたし漠然と思っていましたが、そちらの道に進まなくて大正解。
教員なんてなるもんじゃない、と心底思わせてくれる問題作でもあります(笑)
面白かった!
これがありふれている恐怖
田舎出身の私にはあまり馴染みはない自主性を重んじるような学校。しかしながらも、不寛容方式というなんとも矛盾した方式。
真実に目を向けるのではなく、真実に至るまでの過程や、行動を起こす引き金に焦点を当てている。
校則・規律は守られるためにあるが、どこかで例外ができると特別扱いになってしまう柔軟性のないもの。
全ての人間がそれを許容できるはずもなく、学校という大きくて閉鎖的な空間ではギチギチになるまで不満が溜まってしまい、どこかに穴ができないと吐き出すこともできない。
穴を作らずに解決する方法はあるのか、それぞれがもつ正義は仲良く手を繋ぐことはできるのか。
少年がルービックキューブを渡したのは全てを揃えて解決することができたからなのか、それとも一つに過ぎない反発なのか。
真実や答えではなく、過程や方法に目を向けることで新しく見れた視点でした。
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