劇場公開日 2024年5月17日

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「最初から最後まで一切の無駄なく息を詰めて見た映画」ありふれた教室 talismanさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5最初から最後まで一切の無駄なく息を詰めて見た映画

2024年5月17日
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鑑賞方法:映画館

怖い

難しい

こんなに緊張感を持続させて構成された映画って初めて見たと思うほどだった。

学校を舞台にした映画は色々あるけれど、教師と生徒と保護者に焦点を当てた最近の映画を挙げるとしたら「怪物」だろうか?「怪物」はこの映画と比べると大人の登場人物がマンガっぽい。教師間も教師と生徒、教師と保護者の間にちゃんとした言葉によるコミュニケーションや議論はなくて全てほわーっとした雰囲気の、または戯画化された映画だった。テーマそのものも子役も良いので「怪物」は好きな映画だけれど色んな意味で日本的だと改めて思った。

移民の子どもたちも普通にいるギムナジウム。あまり勉強に向いてないのに親の欲目でギムナジウムに来てしまう子どもも多い。教師も含めて移民のバックグラウンドがある人達がいるのが普通。日本同様、教師不足で保護者との対応は気が重いし、とってもストレスフルな職業だ。教師にとって一番大事なのは生徒。それをカーラは自分としては徹底していたと思う。ただ誰かへの相談や立ち止まってみる、が新人教師のせいか足りなかったかも知れない。このギムナジウムの教育方針に疑問を感じ反発しながらも過剰適応してしまった部分もあると思った。

教室でのカーラによる朝の挨拶。手を叩きながらGuten Tagとみんなで言う。ものすごい違和感を感じた、幼稚園みたいで。カーラが授業中に生徒を静かにさせたり注意を向けるために手を2回打ったら生徒もそれに呼応して手を打ちみんな静かになって先生の方をみる。これもすごく怖かった。あとでわかる:生徒達もその、特に朝の「儀式」は子どもっぽいと思っていたが先生に付き合ってやっていたのだ。

ところで、何度か校長の口からも出る「非寛容(ゼロ・トレランス)方式」という言葉に時代逆行的な雰囲気を感じて心がざわついたのでちょっと調べた。学校が荒れた時代の対応策でアメリカ合衆国発のようだ。この映画では学級委員への聞き取り、校長や教師の生徒への対応、警察への連絡、事務職の女性とその息子ヘの対応にそれは見られた。対象となる人の背景は一切考慮に入れない(移民とか人種、性別、シングルマザー/ファーザー、貧富、勉強ができるできない、コネのあるなし、保護者から教師への圧力、障害がある、身内に不幸があったなどなどに配慮しない、屈しないということだろう)。事柄や「事実」のみを対象にする。そして「客観的」に決められた処置方法や処分を容赦なく機械的に当てはめる。最後のシーンはまさにそうだった。私はオスカーを応援していた。だから王様のようなオスカーに心の中で「頑張れ!負けるな!」と叫んだ。でもオスカーは転校をまぬがれないだろう。

こういうのがいいのか、それともみんな右へならえ、目立たないのが一番、落第はない、学校は青春だーみたいなのがいいのか・・・。

とにかく刺激的で挑戦的で観客を不安な気持ちで一杯にして問いかける、質の高い映画だった。監督・脚本はトルコ系のイルケル・チャタク、主人公はレオニー・ベネシュ、銘記!

おまけ
数学であれ体育であれ、とても理知的で深くものごとを考えるきっかけを与える授業に魅力を感じた。それから、日本でいう中学・高校で一人の教師が二科目担当するシステムはいいと思う。それによって担任教師は生徒をより多面的に見ることができると思う。

talisman
uzさんのコメント
2024年7月2日

朝の“儀式”に対する違和感の回収は強烈でした。
文化的な見聞がないため、そういうものとして流しかけてたので、余計に。

不寛容方式は“罪”が確定してこそ意味があると思います。
なのに、100%の証拠がない状態で告発したのが悪手でしたね。
ここは0.9999…と1の授業が上手く効いていました。

uz
Mさんのコメント
2024年6月9日

レビュー、及び、こころさんとのやり取り、興味深く読ませていただきました。
talismanさんのレビューでは、いつもまったく知らない外国の情報があり、とてもためになっています。
ありがとうございます。

M
グレシャムの法則さんのコメント
2024年5月27日

最近、仕事の関係で、映画館に行けるのが、週末1本くらいになってたんですが、この映画だけは絶対リアルタイムで見たいと思ってて、やっと今日鑑賞!
想像通りtalismanさんの好みにドンピシャだったようで安心?しました。
こういう映画をやってくれるテアトル系とか、これからも大事にしたいですね。

グレシャムの法則
SAKURAIさんのコメント
2024年5月25日

こんばんは!

犯人探しがテーマでないってのは途中気づいたんですけどね~
何か長いなと思ってしまいました。

今日観た別作品は好物だったんですけどね(笑)

SAKURAI
ひろちゃんのカレシさんのコメント
2024年5月20日

コメントありがとうございました。
明治の文豪は”I love you”を「月が綺麗だ」と和訳したそうですが,対面して直接相手に好意を伝えるのではなく並んで一緒に美しい物(花鳥風月)を愛でてその幸福感を共有するのが日本的な愛し方である,というのがその本意であると何かの本で読んだのを,あのシーンで思い出した次第です。

ひろちゃんのカレシ
ジャーニーさんのコメント
2024年5月19日

オスカー頑張れでしたね笑

ジャーニー
Bacchusさんのコメント
2024年5月18日

おかげさまで映画は見続けてますよー

Bacchus
Bacchusさんのコメント
2024年5月18日

大学でもモンペヤバいですね(*_*)

Bacchus
こころさんのコメント
2024年5月18日

talismanさん
ご自身の仕事をしながらの議員活動、国民のリアルな価値観や考え方を、政治に反映出来そうですね。
良いやり方かも知れません。
介護、医療、教育現場の現状をしっかりと把握して、一日でも早く改善して頂きたいですよね。

こころ
ジャーニーさんのコメント
2024年5月18日

コメントありがとうございました。
本当に潔いくらい余計なもの?を削ぎ落とした作品でした。
1日の出来事だった?と錯覚しそうなくらい。そして感情移入する間もなく終わりました笑

ジャーニー
こころさんのコメント
2024年5月18日

talismanさん
コメントを頂き有難うございます。
ドイツの保護者会は夜間なのですね。
過酷であろう事は彼女なりに覚悟していたようですが、不慣れな初任時に大変なのはある程度仕方ないとしても、新たな責任を伴う業務も任され、4月からは昨年度以上に過酷さを増しているようで、最早プライベートの時間が … 部活動イベント、学校行事、頼まれ仕事の無い … 日曜に取れるかどうか、といった状況のようです。
国会議員の皆さんに、1週間程学校現場に張り付いて頂くなど、現場の教員達の疲弊している姿を、きちんと見て頂きたい。そう願ってやみません。

こころ