劇場公開日 2024年6月21日

「死んでしまった命と、いま生きている命、どちらの方が大事なんですか?」朽ちないサクラ 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5死んでしまった命と、いま生きている命、どちらの方が大事なんですか?

2024年6月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

主題は、そこか。目の前の今救える命と、それを犠牲にすることで救える100の命の天秤。これは永遠に答えが出ないことだと思う。だって、目の前の命を見殺しにしたら後々まで後悔は残るだろうし、助けたことが原因で100の命を失ったとしたらそれはそれでまた後悔になる。助けたとしても100の命を守れる方法を探すとか、議論推論は何通りも出てくる。以前読んだ漫画で、目の前で妻と母が溺れそうになった時、どちらかしか救えないとしたらどちらに手を差し伸べるか?の問いかけに「近いほう」と答えていた。選ぼうとするなってことだな、と目から鱗だった。結論は、救える命から救う、それしかないのではないかな。

このテーマにオウム、いやヘレネスという宗教団体が絡んで物語が進行していく。オウム、いやヘレネスのうさん臭さが物語を闇深く引きずり込んでいくミステリー。オウム、いやヘレネスは駆逐しても根絶やしになることのない生命力を持っているが、それは人間の心の闇も奥深いからってことなんだろうな。身近な大事な人がオウム、いやヘレネスの信者だったとしたら、自分はどう行動するのだろうかという自問も湧いてきた。

サクラは、その言葉の意味するところは桜だけに限らず。警察ものだけにそれをうすうす気づきながら映画を観る。ところどころで美しい桜の映像もさしこまれるが、「サクラ」の意味することを意識していると、けして心穏やかではいられない。むしろ「監視」とさえ思えてくる。それがいかに美しいとしても、その存在が他人をも寄せ付けぬ曲がることのないガチガチの正義である以上、桜の映像が出てくるたびにゾワゾワとしてくるのだ。しかもタイトルは「朽ちない」と頭に就く。ああ、あの組織は何があっても絶えることはないのだな、警察社会においてアンタッチャブルなんだろうなと思った。でも、それがまっとうな正義なのであれば、潔癖すぎようがなんだろうが、社会には必要なのだろう。その組織に属する彼(伏せますが)の人生も、また「犠牲」なのではないかと思うと、自分の身を捨ててまで国家に尽くすその生き方に、とても「そんな人だとは思わなかった」という罵声を浴びせることは僕にはできない。
そしてラスト近く、業平の『世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし』の歌を口にする。意味深だなあ。

栗太郎