「究極のトロッコ問題」朽ちないサクラ ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
究極のトロッコ問題
ストーカー被害に遭っていた女性が殺害され、
犯人は逮捕されたものの、
従前から相談を受けていた警察は
被害届の受理を先延ばしにしていたと非難される。
更にその間に、署の慰安旅行に行っていたことが地元紙にスクープされ、
世間からの指弾はより高まる。
愛知県警に勤務している『森口泉(杉咲花)』は
交際している刑事の『磯川俊一(萩原利久)』からの何気ないメールの内容を
親友で新聞記者の『津村千佳(森田想)』に話したことが
スクープの元ネタになったのではないかと疑うが、
『千佳』はきっぱりと否定し、身の潔白を証明しようとするが
その一週間後に変死体で発見される。
自分が疑いを掛けたことが親友を死に追いやったと自責の念に駆られた『泉』は、
(刑事でもないにもかかわらず)犯人を捕まえるために『磯川』と共に動き出す。
原作の功だろう、
良く出来た一本に仕上がっている。
何よりも、間抜けな警察が出て来ないのが一番の手柄。
ありふれた作品が、警察の手抜かりが前提で成立するストーリーが多いなか、
ここでは常に科学捜査に基づき、先走った単独行動をする者もいない。
警察が気づかなかった些細な証拠を主人公が見つけるのは前段があるからで、
それをリードするためのエピソードが
真相が明らかになる最後の場面で大きく効いて来る。
小道具の使い方、伏線の張り方も共に巧み。
また、BGMや画面の陰影も、
王道の表現ではあるものの、
サスペンスを盛り上げる装置として上手く機能する。
『泉』の所属部署の上司『富樫(安田顕)』が
なにくれとなく彼女をサポートするのは
腹に一物がありそうにも見え。
彼は元「公安」の立場を利用し
更に(刑事でもない)部下を自由に動かすことで
犯人逮捕という目的を果たそうとしているようにも見える。
とは言え、本作でも「公安」との相克は
物語の重要なカギとなるテーマ。
最初は純粋にストーカー殺人と見えていた事件は、
他にも何人かが犠牲になることで
異なる側面を見せ始める。
とりわけ、一人を救ったことで百人の死傷者を出した過去と
一人を犠牲にすることで多くを救うかもしれない未来を天秤にかける独善が
ラストで交差、
本作の主題が鮮やかに浮かび上がる。
見事なストーリーテリングだ。
最大幸福のためには多少の犠牲はやむを得ぬとの思考は
はたして正しいのか。
贖罪のために振りかざした正義は
視野狭窄に陥り、独善的になる。
それを咎める存在がいないことが恐ろしい結末に繋がる。
他にとる術は本当に無かったのかと。
各々が信じる正義のぶつかり合いは
次の新しい物語を生むのだ。