「家族の総てを奏でて」ピアノ・レッスン 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
家族の総てを奏でて
一台の古いピアノ。
ある家族の家宝であり、売れば値打ちもの。
だがそれには、奴隷でもあった黒人家族代々の歴史が刻まれている。
そのピアノを巡って、若い世代で真っ向対立。売るか、売らないか。
家族間の不協和音を鳴らす…。
1930年代。ボーイ・ウィリーは友人ライモンと共に大量のスイカをトラックに乗せ、叔父ダーカーが住むピッツバーグの町へ。
ある目的が。スイカを売った金と、叔父の家にあるピアノを売った金で、土地を買う。
だが叔父は…と言うより、叔父の家で暮らすボーイ・ウィリーの姉バーニースは絶対に売らない。
案の定ピアノを巡って、姉と弟で対立。元々姉弟仲もよろしくないようで、大喧嘩にも発展。
売りたい弟。売らない姉。叔父は売らない派だが面倒は避けたい。叔父の兄ワイニングもやって来てどっち付かず。ピアノの所有権はややこしく…。
また、このピアノは何やら曰く付き。ピアノや家族と関わった者が井戸から落ちる不審死続く。家の中で、家族の所有者だった白人主の幽霊の目撃談が…。呪いのピアノ…?
一体このピアノと家族はどんな歴史が…?
数奇と悲劇の繰り返し…。
家族の所有者だった白人主のサター。結婚するに当たって、婚約者にピアノをプレゼント。
が、ピアノの所有者はノーランダーという白人男で、金が無かったサターは自分の所有する黒人奴隷二人と交換。それが姉弟の曾祖母と祖母に当たる。
サター夫人はピアノに喜ぶが、お気に入りだった奴隷二人も惜しむ。そこで木工師だった姉弟の祖父がピアノに二人の顔を彫る。以来、家族の行事をこのピアノに刻んでいく事に。
すると次第に家族の新しい世代で、あのピアノは俺たち家族のものだと言う思いが。
そしてある時遂に決行。ダーカーとワイニング、二人の兄で姉弟の父チャーリーの三兄弟がピアノを盗む。
が、追っ手に追われ、チャーリーが命を落とす…。
ピアノを巡って死んだ父。
父を殺したと思われる犯人も井戸落ちの不審死。
ただのピアノじゃないのだ。家族の歴史と悲劇と様々な思いや出来事の証…。
どちらの言い分も分かる。
古い考えを一蹴するボーイ・ウィリー。曰く付きのピアノを売って絶ち切って、家族の未来の為に。
バーニースにとっては家宝だけではなく、父親の死因でもある。家族の総てが刻まれており、手放したくない。
バーニースのピアノへの執着は純粋な家族愛ではない。寧ろ、束縛。
ピアノの為に命を落とした夫を思い、姉弟の母はピアノを異常なまでに重宝。毎日毎日ピアノを磨き、メンテナンス。バーニースにピアノを弾かせる。ピアノを弾く事で夫/父と会える…。
それは愛や幸せなんてもんじゃない。見ていて恐ろしく、苦しくなるほど。
この家族は鍵盤の上で翻弄され続けるのか…?
数奇な家族とピアノの物語に、ある家族が挑む。
父デンゼルがプロデュース。長男ジョン・デヴィッドが主演。次男マルコムが監督。才あり過ぎるワシントン・ファミリー。
ピュリッツァー賞に輝いたオーガスト・ウィルソンの戯曲の映画化。
キャストもほとんどブロードウェイから続投。
キャリアの好調ぶりを示すジョン・デヴィッドの熱演。サミュエル・L・ジャクソンも久々のヒューマンドラマ/シリアス演技で本領発揮。
キャストで最も印象残すは、ダニエル・デッドワイラー。家族とピアノに対して複雑感情の難演を見事に。ジョン・デヴィッドとの演技バトルは圧巻。
父デンゼルも監督として評価されているが、息子マルコムの手腕も手堅い。
ヒューマンドラマだが、奴隷問題を絡め、ピアノに纏わるミステリー、ほぼ家の中の会話劇だが緊張感途切れさせず、ぐいぐい見せる。終盤はまさかの超常現象…?! それはピアノの呪縛や代々奴隷からの解放や自由を表している。
美しくもあり、恐ろしくもあり、圧巻でもあるピアノの音色も。
どの家にも家宝と言える家族の歴史や思い出が詰まったものがある。
某古時計は名曲になり、感動呼ぶが、本作は感動なんてもんじゃない。
呪いのように家族を束縛し、苦しめ、悲劇も…。
今も家族間の対立を招く。
が、この家族と共に時を刻み、苦楽を奏で、家族の総てなのは確かだ。
家族のこれからを奏でていく。
家族もこれからを奏でていく。