「懐かしのオールスター大集合とファンサービス」ビバリーヒルズ・コップ アクセル・フォーリー 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)
懐かしのオールスター大集合とファンサービス
エディ・マーフィ主演の大ヒットシリーズ30年ぶりの続編!懐かしのキャスト達も勢揃いし、シリーズ史上最大のお騒がせぶりを発揮する。
私が映画好きになるキッカケをくれたのが、この『ビバリーヒルズ・コップ』シリーズ(特にトニー・スコット監督による軽快な語り口の『2』がお気に入り)。だからこそ、今作(4作目)の完成を今か今かと待ち侘び続けてきた。幾度となく続編の話が持ち上がるも、立ち上がっては消えて行くを繰り返しており(中にはアクセルの息子が登場するというアイデアもあった)、中々実現しないまま、前作から30年という時間が空いてしまった。
しかし、遂に最新作がお披露目された!
本作を一言で表すなら、【最高のファンサービスと同窓会】で間違いないだろう。ともすれば、本シリーズに関心のない人にとって、本作は凡庸なアクション映画の一作に過ぎないかもしれない。作中に散りばめられたあらゆるポイントは、ファンでなければ楽しめないものばかりだから。
ただ、アクセル、ビリー、タガートの3人揃っての絡みの少なさは非常に残念だった。3人全員が無事揃うのは、ラストのストリップバーへ向かう車中のみ。やはりこの3人でこその『ビバリーヒルズ・コップ』だと思うので、もっと3人で協力しながら捜査に取り組む姿が見たかった。それさえ満たしていれば、満点評価でも良かったのだが、このシリーズが本当に好きだからこそ「もっと!」と思わずにはいられなかった。
また、せっかくアボットという若手の刑事が加わったのだから、時代の変化について行けない3人を適時フォローするように対比させてみても面白かったと思う。タガートなんて絶対に「若いな…」とか「時代か…」とボヤいてみせるだろうに。
流石に時が経ち過ぎたか、主演のエディ・マーフィはともかく、ビリー・ローズウッド役のジャッジ・ラインホルド、ジョン・タガート役のジョン・アシュトンのアクションは控え目。年齢を考えれば皆それぞれ老体に鞭打ってよくアクションシーンを頑張ってくれたなとは思うが。というか、エディ・マーフィだけが異様に若い(笑)作中でもジェフリーに空港に送ってもらった際に弄っていたが、彼1人だけは本当に若々しい。
しかし、そんなアクセルも今作では弁護士の娘ジェーンを持つ父親。すっかり街の人気者になっている姿は微笑ましいが、父親としては事件ばかりで家庭を顧みず、マフィアに狙われせない為に離婚し、離れて暮らしているから娘とは疎遠。また、時代の変化と共に、かつてのアクセルの口八丁手八丁のやり口が通用しなくなってきた様子。それをカバーするジェーンの見事なアクセル2世っぷりが痛快で、今作は彼が娘との絆を取り戻す物語でもある。
ビリーは相変わらずの様子で、タガートと仲違いして警察を辞め、探偵事務所を開いて独自に捜査している姿が、アクセルの影響で無鉄砲な方向に進んだ彼らしい。油断して敵に捕らわれてしまうのも、救出されて久々に再開したアクセルの無茶っぷりにニヤニヤする姿も「あ、ビリーだ!」となった。事務所にランボーのポスターが貼ってあるのは、『2』を観たファンならニヤニヤさせられるし、彼だけ未だ独身の様子なのも解釈一致。
タガートは職務復帰し、ビバリーヒルズ署の署長になっている。『3』では引退して隠居生活を送っている事になっていたが、なんやかんやで無しになった様子。署長のポジションはかつて、『2』のラストでボゴミルが就いたポジションなのも感慨深い。そんな立場から、最早苦労人では無くなったかと思えば、奥さんとの生活に疲弊しつつ、肝臓を悪くしてエクササイズや薬を服用している様子には、あの頃の苦労人感が出ていて嬉しい。
「アクセル!お前今度はヘリ盗んだのか!」は最高だった。
だからこそ、出来ればクライマックスでは3人無事揃っての「いざ、決戦!」感が欲しかったのは否めない。グラントの屋敷に乗り込む際、どう乗り込むか困り果てているアクセル達にアボットが「援軍が必要だ」と発した時に、タガートが駆け付ける展開が欲しかった。そう、まさしくシリーズ第1作でメイトランドの屋敷にアクセルとビリー2人だけで乗り込もうとしていた瞬間に、彼が駆け付けてくれたように。
それか、ビリーの救出は中盤辺りで済ませて、それと引き換えにジェーンが攫われてしまい、SDカードを渡さざるを得ない状況に陥らせる。そこからジェーン救出作戦で3人+アボットが力を合わせる展開でも良かった気がする。ビバリーヒルズ署でアクセルがタガートに言った「刑事(デカ)になれ」という台詞が活きてくるし、トラックで屋敷に突っ込むアクセルに、呆れたタガートが「アイツだけ若くて羨ましいな」なんてボヤいても笑えただろう。
年齢的な話で言うと、敵の親玉グラント警部役にケヴィン・ベーコンと、敵も味方もおじいちゃんだらけなのは笑える。登場から1発で「あ、コイツ悪者だ」と分かる胡散臭さは流石。
アクセルの娘ジェーンは、父親を恨みつつも、口八丁な様子はバッチリ彼の遺伝子が受け継がれているし、弁護士という正に弁の立つ者がなるべき職業なのも頷ける。父親譲りの頑固さと正義を貫こうとする姿勢も立派な2世っぷり。てっきり、彼女は『3』のラストでアクセルといい感じになったジャミスとの子かとも思ったが、話を聞く限りは違う様子?
新しく捜査メンバーに加わるアボットの、話の分かる且つ意外と間抜けな部分のあるキャラクターもこのシリーズらしく、年老いて全盛期の馬力を出せないアクセル達を良く援護(介護)している。銃の腕前は確かだが、まさかヘリの墜落事故を起こしてトラウマになったから刑事になっていたとは。
かつてアクセルの相棒という名の振り回され役だったジェフリーが、今やアクセルより立場が上の本部長補佐になっていたのには驚いた。すっかり年老いてしまっていて、最初は誰だか分からなかったくらいだ。しかし、時代の変化に犠牲となりつつも、相変わらずアクセルの為に働く姿は泣かせる。
画廊の販売員に、胡散臭い武器のプロデュースと、度々シリーズに顔を出しては強烈な個性を放っていたセルジュが、今作では不動産屋として登場する。歳を取っても相変わらずの変人っぷりと、人の名前を正しく発音しない様は見ていて安心すら覚える。
他にも、さりげない台詞や小物に懐かしさが溢れていて、鑑賞中何度も「あぁ、懐かしい…!」という気分になった。
このシリーズを語る上で忘れてはならないのが音楽!
開幕早々、シリーズ第1作目のオープニングを彷彿とさせるGlenn Freyの『The Heat Is On』をバックに映し出される、現在のデトロイトの姿。
宝石商殺しの強盗団との除雪車による街中でのカーチェイスシーンは、『2』のタンクローリーのシーンが過ぎるが、曲も同作のBob Segerの『Shakedown』という最高の選曲。そもそも、宝石絡みの事件というのも『2』の冒頭と共通している。
様々なアレンジで披露されるシリーズのメインテーマ曲である『Axel F』は、掛かるだけでテンションが上がらずにはいられない。今回は作中のテーマだけでなく、エンディングでもLil Nas Xの『HERE WE GO!』でアレンジされて披露されている。
とにかく、作中のありとあらゆるシーンに懐かしさが溢れていて、ファンとしては存分に懐かしさに浸れる一作だった。しかし、出演陣の年齢を考えると、やはり「せめてあと10年早ければ!」とも思ってしまうし、アクセル達3人の絡みをもっと見たかったのは間違いない。
それでも、久々のシリーズ復帰を快く引き受けてくれた懐かしのキャストの面々。度重なる企画頓挫や監督交代にもめげずに、最終的にメガホンを取ってくれたマーク・モロイ監督。懐かしさに溢れた物語を紡いでくれたウィル・ビール、トム・ゴーミカン、ケヴィン・エッテンら脚本陣に拍手を贈りたい。
最後に、今作がNetflix独占配信作なのが悔やまれる。これは是非とも劇場で観たい一作だった!