「恐ろしい現実なのに楽しんでしまう」正義の行方 La Stradaさんの映画レビュー(感想・評価)
恐ろしい現実なのに楽しんでしまう
1992年に二人の女児を殺害した容疑により逮捕された男が、終始犯行を否認し続けたまま死刑判決が確定し、2008年に執行されました。本作は、彼が本当に犯人だったのかを徹底した取材により洗い直したドキュメンタリーです。こんな言い方は無責任な野次馬的なのですが、一流の法廷劇を観る様なドキドキに満ちた作品でした。
まず、前半部では事件のあらましが述べられます。警察の捜査に幾分の強引さは感じられるものの、一つ一つ積み上げられる証拠に「なるほど、この人がやはり犯人だな」との心証が強まります。
ところが後半。彼の弁護士団、更に事件当時に本件を報道した新聞社の検証報道による見直しで、その証拠に疑問が次々と突き付けられるのです。特に、決定的と思えた死体遺棄現場にあった犯人のDNAデータに、警察の捏造が窺われるという実物を見せての決定的な証拠には唖然とさせられます。
彼が犯人ではないという決定的な証拠もないのですが、「疑わしきは被告人の利益に」という裁判の大原則は踏みにじられている様に映ります。そして、弁護団による「死刑執行後の再審請求」は、最高裁でも棄却されます。そこには、「事実の再検証の結果」と言うより、「死刑執行後の今更になって再審など認めては、日本の裁判制度そのもののへの信頼を損なう」と言う政治判断があったのではないかという疑いをどうしても抱いてしまいます。
こうして、犯行動機も、犯行過程も、殺害手段も何もわからぬままの犯罪が疑惑を残したまま葬られようとしているのです。これが「法廷劇」ではなく、裁判の現実である事に背筋が凍ります。
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