「本能に従順で、対外関係を壊さない嘘こそが、生き残る唯一の術だったのかもしれません」胸騒ぎ Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
本能に従順で、対外関係を壊さない嘘こそが、生き残る唯一の術だったのかもしれません
2024.5.14 字幕 アップリンク京都
2022年のデンマーク&オランダ合作の映画(95分、PG12)
旅行先で出会ったオランダ人家族の元を訪ねるデンマーク人家族を描いた不条理スリラー映画
監督はクリスチャン・タフドルップ
脚本はクリスチャン・タフドルップ&マッズ・タフドルップ
原題は『Gaesterene』で「ゲスト」、英題は『Speak No Evil』で「悪口を言うな」という意味
物語は、デンマーク人一家の主人・ビャヤン(モルテン・ブリアン)、その妻・ルイーセ(スィセル・スィーム・コク)、娘のアウネス(リーバ・フォシュベリ)が、オランダのある村に休暇に訪れるところから紡がれる
彼らは、地元のオランダ人一家の主人・パトリック(フェジャ・ファン・フェスト)、その妻・カリン(カリーナ・スムルダース)、息子のアーベル(マリウス・ダムスレフ)と仲良くなり、社交辞令の如く、「今度ウチにいらしてください」と言う会話を交わすほどになっていた
帰国して間もなく、パトリックたちから絵葉書が送られてきたが、遠方ゆえに行くことは躊躇われた
だが、友人のヨーナス(イェスパ・デュポン)から「車で8時間の距離だ」と聞かされ、夜に出れば朝には着ける距離であることがわかった
そこでビャヤンたちは、パトリックたちの申し出を受けて、彼らの自宅へと訪れることになったのである
物語は、パトリックの家で過ごすうちに違和感を覚えたルイーセが「帰りたい」と言い出すところから動き出す
彼らが寝静まった頃に逃げるように家を出たものの、アウネスが大事にしていたウサギのぬいぐるみを忘れてきたことに気づく
やむを得ずに戻り、こっそりとそれを探しに行くものの、パトリックたちに見つかってしまい、黙って去ったことを咎められてしまうのである
物語性はさほどなく、パトリックたちの何かを生理的に嫌うルイーセが警鐘を鳴らすものの、黙って帰ろうとしたことを取り繕ううちに、逃げられずに終わる様子が描かれていく
その後もパトリックたちは「最高の1日にしたい」ともてなしを続けていき、ルイーセの違和感も拭えていく
だが、そこで再び違和感が生じ、逃げ出そうとするものの、時すでに遅しという感じに綴られていた
映画は、終始不穏な雰囲気が漂っていて、人としての礼節を怠ったビャヤンたちの居心地の悪さが描かれていく
だが、パトリックたちの本性はルイーセの予感通りで、実のところ、これまでに何度も「子どもが一人いる家族」と関係を持ち、子どもを入れ替えてきたことがわかる
アーベルの先天性の失語症は嘘で、実際にはパトリックたちによって舌を切られていて、アウネスもその仕打ちに苛まれることになった
そして、絶望したビャヤンとルイーセは彼らに言われるがままに行動し、最終的には石を投げつけられて殺されてしまうのである
どうして徹底的に抵抗しないのかは謎に思うものの、これまでの経緯から「抵抗できない家族」と言うものを選んでいるように思えた
あくまでも相手の行動を自主的に促し、それによって行動制限をしているのだが、ラストに至る「言いなり」には違和感を覚えてしまう
おそらくは、娘の喪失によって未来に絶望を感じ、生きる気力を失ってしまったのだろう
いずれにせよ、前半はそこまで奇異な体験でもなく、どこにでもありそうな人間関係の不和と言うものを描いていた
後半になって、実は相手が異常者だったとわかるのだが、前半の段階でここまでの落差というものは想像し得ないだろう
そう言った意味において、人間の本能の鋭さというものを磨いておく必要があるのかな、とも思う
とは言え、自分に接近するすべてを疑うのは難しいので、違和感を感じた時には、相手の機嫌を損ねないように距離を取るのがベターだったと言えるのではないだろうか