「ノーと言える日本人になろう!」胸騒ぎ おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
ノーと言える日本人になろう!
ホラーは苦手なんですが、紹介文にある“ヒューマンホラー”という言葉を見て、これはきっとだいじょうぶと自分に言い聞かせて鑑賞してきました。
ストーリーは、休暇でイタリア旅行に出かけたデンマーク人夫妻のビャアンとルイーセと娘のアウネスは、そこで出会ったオランダ人夫妻のパトリックとカリンと息子のアベールと仲よくなり、帰国後しばらくしてパトリック夫妻から招待状が届いたため、ビャアン一家はパトリック家を訪問し、再会を喜ぶものの、ちょっとした違和感からしだいに居心地が悪くなっていくというもの。
些細なことと思いながらも感じる微妙な違和感が、少しずつ積み重なることで居心地の悪さにつながり、それが決定的な嫌悪となり、やがて恐怖へと変化していきます。人のよさげなビャアンの出方を見ながら、パトリックがグイグイと詰め寄っていく感じが、とてもうまく描かれていると感じます。パトリックがビャアンに大声を出させる場面も、ビャアンの内に秘めた心情と人柄を描くとともに、そこにつけ込むパトリックの巧妙さを描いていると感じます。
終盤は、しゃべれない息子、自宅への誘い、錆びたハサミ、庭先の小屋など、用意した伏線を回収しながら見せるオチが、なかなかおもしろかったです。その上で、畳みかけてくるようなエグさと胸クソの悪さが、本作の見どころの一つになっていると思います。まあ、好きな人にはたまらないかもしれませんが、自分には好みの終わり方ではなかったです。最後はもう少し救いがあってもよかったのではないかと思います。
ただ、冷静に考えると気になることがいくつもあります。そういう目的で一家を招いたのなら、何日も滞在させる必要はないように思います。ビャアンたちをあのまま放置したのも解せません。そもそも招待のハガキが自宅にあり、パトリック宅に行くことも話しているので、戻らなければすぐに捜査の手が伸びるのではないでしょうか。…などといろいろ考えると楽しめないので、この週末の出来事だけを切り取って鑑賞するのがいいのでしょうね。
誰かのお世話になる時、その人のやり方に関して覚える違和感はなかなか口に出しにくいものです。相手に不快な思いをさせまいとする配慮、きっとこういう理由があるのだろうと考える善意の解釈、加えて正常性バイアスが働いて、ことを荒立てず、心の平穏を保とうとするからでしょう。本作では、そんなビャアンの言動に対して、ラストでパトリックが突きつけた「君が差し出した」という言葉が印象的です。だからといってパトリックの行動が許されるはずもないのですが、ビャアンのような言動をとりがちな日本人は、上手にノーと言えるスキルと強い気持ちを身につけなければいけないと感じました。
キャストは、モルテン・ブリアン、スィセル・スィーム・コク、フェジャ・ファン・フェット、カリーナ・スムルダースら。知らない俳優さんばかりですが、それぞれに好演していたように思います。