「型や常識を突き崩し、自問自答しながら歩んでいくために」アメリカン・フィクション 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
型や常識を突き崩し、自問自答しながら歩んでいくために
ジェフリー・ライトといえば、007シリーズやウェス・アンダーソン作品でもお馴染みだが、これほどどっぷりと彼の魅力に浸れる機会が巡ってこようとは予想してなかった。まず本作はストーリーがめちゃくちゃ面白い。小説や映画のテーマとして多様性やマイノリティの権利に主眼が置かれることは多くとも、それが単に流行や商業主義に乗っかってるだけではないのかという思いは常に作り手の頭を悩ますところ。人々が何も考えずにステレオタイプでその題材やテーマを振りかざし始める違和感を、この映画は決して目くじら立てることなく、穏やかな自省と皮肉を込めたコメディ風の社会派ドラマとして絶妙な筆致でまとめている。同時にこれは、とあるアフリカンアメリカン家族の肖像であり、家族同士であっても理解し合うのに何十年もの歳月を要しながら生きる彼らの、型にはまらず、手探りし続ける人間模様だ。呼吸するようにセリフや映像を彩る音楽も素晴らしい。
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