「まあ、実写化ってこんなもんだよね」【推しの子】 The Final Act バソラプンテさんの映画レビュー(感想・評価)
まあ、実写化ってこんなもんだよね
原作漫画、アニメ、ドラマ、全部完走した上で視聴しました。
実写化映画としては、普通によくできてると思います。特に俳優さんの演技がとても良かったですね。
ストーリーは、2時間枠に収めるためにバッサリ切り捨てていますが、まあ何とか物語としては成立しています。とはいえ、一本の映画だけでは成立しておらず、原作漫画やアニメ、そして何よりアマプラのドラマを見ていることが前提になってるので、単品で映画だけ見ても意味不明な点が結構あると思います。
原作漫画から追ってる私としては、些細な改変で肝心の主題がボヤけてしまっているのが残念でした。
最大の改変点は、アイが出産前にヒカルを明確に振っていない点です。つまり別れ話が、本当は「ヒカルへの愛」からついた「嘘」であるという物語の根本部分が改変されているのです。おかげで、劇中劇の「15年の嘘」が一体何を示しているのか意味不明になってますし、「嘘は愛だよ」というテーマがボヤけてしまっています。
また、カミキヒカルが、実行犯に具体的に教唆してしまっているので、普通に警察に訴えて逮捕できる点も違います。原作では、教唆にもならない程度の仄めかしで実行犯を操り、自身は何の罪も被らない知能犯で逮捕できないからこそ映画を作ったのに、単なる犯罪者になっていました。映画を作る意味も、ヒカルに社会的な制裁を加えるためになってました。これも物語の根幹に関わる改変でしょう。
ラストシーンも微妙に改変されていて、アクアがカミキヒカルと心中するのは同じですが、アクアが計画的に行ったのではなく、映画を見たカミキヒカルが、アクアを刺してルビーを誘拐したので、アクアはルビーを守るために咄嗟にヒカルを道連れにしたというストーリーになっていました。つまり「カミキヒカルが絶対悪で、アクアは悪くないよ」って強調されていました。しかもアクアの死体は見つからなかったことになっているので、生存フラグも立ててありました。
この辺の改変は、原作より映画の方が納得しやすいですね。
あと、途中でカナちゃんの引退ライブをフルコーラスで延々流されたのもちょっと微妙でした。その尺があるなら、他にも入れられたエピソードがたくさんあったのにと思います。
しかも同じ曲をエンディングでも使用して、フルコーラス2回目で流石にうんざりさせられました。せめてエンディングの映像が、アイとルビーの共演とか、アイドルになったサリナちゃんを応援してるゴロー先生とか、実は生きてたアクアが覆面して応援に来てるとか、「有り得たかもしれない優しい嘘」のエンディングだったら良かったのになーと思いながら見ていました。
全体としては、「まあ実写化ってこんなもんだよね」って感じの映画でした。出演している俳優さんのファンで、推しの子を何となく知っているような人にはお勧めできる映画でした。
逆にいうと、出演者に興味がない人とか、推しの子のガチのファンにはあんまりお勧めできませんね。
単品の映画としても成立してないので、全体として星3にしておきます。
蛇足
ここからは完全な私の邪推なんですが、原作漫画の酷評されてる最終話、映画の影響って可能性はないですかね?
映画を盛り上げるために、映画公開直前に原作を完結させるようにって圧力があったために、時間がなくてダイジェスト最終話になったとか・・・。
あるいは、映画の方が先に撮り終わってて、映画の最終話を試写会で見てた原作者が、描きたかったテーマが蔑ろにされているのを見てやる気を無くしたとか・・・。
まあ、完全に私の邪推なんですけど、実写化に伴うアレコレを描いた本作だけに、「アレコレ」あったんじゃないかなーと邪推してしまいました。