劇場公開日 2024年6月14日

「全ての投稿者にエールを」数分間のエールを 猿田猿太郎さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0全ての投稿者にエールを

2024年6月19日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 動画投稿をする人も最近じゃ珍しくないんでしょうか。この映画のようなMV作成となるとハードルがとても高くて、手を出そうなどと云う人はそうそう居ないと思うのですが。
 でも、そのハードルを一気に下げたのは、ニコニコ動画でヒットした「MikuMikuDance」でした。ボーカロイド「初音ミク」のキャラが3Dモデル化され、それを誰でも容易にMV作成できるツールが無料で公開され、加えて、MV作成のためのモデルや小道具のCG、モーションデータなども交換し合い、爆発的に多くのMVが作成されたものです(実はわたしもちょっと遊んでいました)。この映画でも使われていたこんな目つき(><)の表情が実に懐かしい。そうして、多くの投稿者が生まれ、中にはプロ化した人もいるでしょう。そして、この映画同様、再生数、コメント数に伸び悩む人も、大勢いたことでしょう。そして、折れて、去って行く。
 この映画のMV作成はそんなMMDのブームを思い出します。無論、今時はMMDだけじゃなくもっと様々な形式で自らの才能をアピールしているのでしょう。ただ、正直に思うところ、ただ歌うだけでは厳しいのでは無いかと思う。この映画の先生のような、3桁にしか届かない再生数が実にリアル。この映画の作成者も味わったのではないでしょうか。最後のMVについたコメント「CGキモイ」もまた実にリアルで自虐的。
 最後のMV、歌詞の意味とか聞き取れなくて読み込めなくて理解出来ていないのですが素晴らしかった。歌詞の意味は判らないけど、MVの示すところは実に切実。映画上で語られた、100曲も書き続けた歌、何十冊も書き続けられたスケッチブック。そのモデルは明らかに歌い手の先生自身と絵師の友人。そして「新規作成」をクリックし続ける自分自身。
 最初に作成して先生に断られたバージョンは主人公・彼方君のエゴでしかなかったのかな。作品には作成者を必ず登場させると聞きます。アラレちゃんを創造した則巻博士は、どうみても鳥山明先生自身でしょう。編集者のトリシマさんを悪役にしているのも実生活そのまんまw つまり先生自身をそのまま描ききったということでしょうか。
 ”地上の星は今何処にあるのだろう” 冒頭から語られる、見えない星を探し続けるというような台詞。物作りは創造、発明ではなく、発見なのかもしれません。歌う先生の姿をそのまま描いた。ひたすら描き続けて良いものを作るのではなく見出していく。そういえば、ライフゲームの作品はパターンを作成するのではなく発見するものだという。良いものが見つかるまで、ひたすら描いて良いものを探し続ける。それは自分のエゴとは無縁のもの。
 それにしても、「誰かの心を動かしたい」というピュアな投稿者はどれほどいることか。「高評価、チャンネル登録よろしくぅ!」のエゴそのものの決まり文句は・・・まあ、大変正直で結構。決して批判ではありません。
 全体通して、アニメCGのデザインが新感覚的でとてもよかった。あのMV作成のシーンも、トム・クルーズで用いられたモーションによるオペレーションを大幅に凌駕していたのではないでしょうか。
 ああ、あと中山萌美ちゃんの歌とMVは可愛くてよかった。最後にフルコーラスで見たかったなw

猿田猿太郎
Mさんのコメント
2024年6月23日

なんか、心に響く作品でした。
ものを作ることに関して、原点に立ち返ることができた気がします。

M