デビルズ・バス

劇場公開日:2025年5月23日

デビルズ・バス

解説・あらすじ

「グッドナイト・マミー」で世界的に注目を集めたオーストリアの監督コンビ、ベロニカ・フランツ&セベリン・フィアラが監督・脚本を手がけ、実在の裁判記録に着想を得て、宗教とタブーに支配された歴史の暗部を美しくも残酷な映像表現で描いたオーストリア・ドイツ合作映画。

18世紀半ば、オーストリア北部。古くからの伝統が残る小さな村に嫁いできたアグネスは、夫の育った閉鎖的な世界や村の住人たちになじむことができず、憂うつな日々を過ごしていた。アグネスは彼らの無神経な言動やおぞましい儀式、何かの警告のように放置された腐乱死体など異様な光景を日常的に目撃し、精神的に追い詰められていく。極限状態のなかで現実と幻想の区別がつかなくなった彼女を、村人たちは狂人あつかいするようになる。やがてアグネスは、この世界から自由になることを求めて驚くべき行動に出る。

「ソープ&スキン」の名でミュージシャン、歌手、作曲家としても活動するオーストリアのアーニャ・プラシュクがアグネス役で主演を務め、音楽も手がけた。2024年・第74回ベルリン国際映画祭にて銀熊賞(芸術貢献賞)、第57回シッチェス・カタロニア国際映画祭にて最優秀作品賞を受賞した。

2024年製作/121分/PG12/オーストリア・ドイツ合作
原題または英題:Des Teufels Bad
配給:クロックワークス
劇場公開日:2025年5月23日

オフィシャルサイト

スタッフ・キャスト

全てのスタッフ・キャストを見る

受賞歴

第74回 ベルリン国際映画祭(2024年)

受賞

芸術貢献賞(銀熊賞) マルティン・ゲシュラハト

出品

コンペティション部門 出品作品 ベロニカ・フランツ セベリン・フィアラ
詳細情報を表示

関連ニュース

関連ニュースをもっと読む

フォトギャラリー

  • 画像1
  • 画像2
  • 画像3
  • 画像4
  • 画像5
  • 画像6
  • 画像7

(C)2024 Ulrich Seidl Filmproduktion, Heimatfilm, Coop99 Filmproduktion

映画レビュー

3.5 代理自殺

2025年10月30日
PCから投稿

「わたしはこの人生にすっかり嫌気がさしたので殺人を思い至った」というテロップではじまるこの映画の内容をまとめてしまうと、この時代の教区において自殺は殺人よりも悪い行為だった。殺人を犯して神父にそれを告解すると、罪を赦された上で処刑(断頭)された。すなわち天国行きが約束された。だから、17世紀から18世紀にかけてのヨーロッパでは、自殺したい者は死刑になるために殺人を犯した。そんな事案(Suicide by Proxy)がドイツ語圏では400例以上記録されており、その大多数が女性だったそうだ。──という史実にもとづくホラー。ミッドサマー系のトラウマ話である上、実話でもあった。
ナオミワッツ版ではなくその元ネタのグッドナイトマミー(Ich seh, Ich seh、2014)を手がけたデュオ監督が演出しており、あちこちのAwardで賞もとっている。
imdb6.6、RottenTomatoes91%と62%。

このホラーを構成しているのは殺人行為に合理性が与えられてしまったという時代背景である。ここで言う合理とは、道理にかなったとか分別のあるという意味ではなく、費用に対して便益がもたらされるバランスが整合しているという意味の合理である。費用は殺人であり、便益は処刑である。この仕組みを与えたのは宗教である。
信心深い教徒で、自殺したい者や鬱病を患っている者らは、劫罰を避けた上で死刑になることができる殺人を、最良の自殺方法だと悟ってしまった。結果、自分の子どもや年端もいかない少年少女が犠牲になった。なぜならこの新手の自殺方法を選択したのは女性だったから。子どもであれば、かよわい女性でも殺すことができたことに加え、まだ罪を犯していない無実の子どもを殺せば、その子どもも天国に行くと教義されていた。彼女らは堂々と子殺しをやって告解によって赦し(天国行きの約諾)をうけ、神の祝福を感じながら断頭されていった。──という恐ろしい話だった。

殺人を犯した者の死体が縁起物であるかのような描写もあった。生首がさらされ、身体の一部が御利益(ごりやく)があるかのように切り取られ、持ち去られた。主人公のアグネスは死体から切り取られた指をお守りのように持っていた。公開処刑でアグネスの首がちょん切られると民衆はアグネスの血を欲しがって断頭台に群がった。それは神に祝福された霊験あらたかなる血と見なされた。

よって映画内には整合性=合理があり、生活の中心に宗教があり、自殺は大罪で、むしろ殺人には恩赦があり、罪を犯していない無実の子どもを殺せばその子どもも現世の苦しみから救うことができるとなれば、狂信者がそれを実践することは有り得るだろう。それは間違っているし、鬱病を発症したアグネスが受ける治療、後頸部に糸を潜らせ気分が塞いだらそれを動かしてその痛みと違和感で憂さを忘れさせる、も非科学的で間違っている。しかし世界が間違いだらけでも、それらは天動説のように時代と宗教の下では間違っていない、わけである。恐ろしいが納得のいく世界だった。

現代でも、生きているのが嫌になったなどの理由で誰かを殺すという事件が定期的におこるがそれとは根本的に違う。この映画はまるでミッドサマーのように禍々しいが、顧みれば現代の殺人のほうがよっぽどホラーである。

コメントする (0件)
共感した! 0件)
津次郎

4.0 フライパンは引っかけた方が絶対に良いですよ

2025年10月12日
Androidアプリから投稿

映画の冒頭で語られる、「実際の裁判記録に基づく物語」。「エミリー・ローズ」?「死霊館」?そんな作品がちらついたが、本作は邦題からは想像できない衝撃的な物語である。美しい自然と、決して多くない台詞、不気味な風習、追い詰められていく焦燥感…どことなくA24が製作をし、ノオミ・ラパス主演の「LAMB/ラム」に近い感覚に陥る作品だった。B級ホラー映画だと思って何の気なしにU-NEXTで鑑賞した自分が愚かに思える。

―ちくしょう、映画館に観に行けば良かった…

そんな言葉が頭をよぎる。
隣村に嫁いだ主人公は、「子どもが欲しい」という思いがあり、熱心なキリスト教信者でもある。聖母マリアへの祈りは忘れず、他の人間が簡単な祈りで終わらせる所を彼女は心からの祈りを忘れない。だが、夜に寝床を共にする旦那を誘っても相手にされず、後ろを向かせて自慰をして満足という何ともな仕打ちである。姑は口うるさく、フライパンは傷つくから重ねずにフックにかけろとか(お義母さん僕もそう思います)調理中はお祈りを続けなさいだとか、料理をしなければ神にしばかれるぞとか、いちいちうるさい。
―そして、自殺をした人間などは天には昇れないという理由で、その辺にポイッと遺体を捨てる。子殺しの女は首をはねられ、処刑場にまだ腐敗して残っている…こんな状況下で、少しずつ主人公は狂っていくのである。

恐らく現代ならば違法薬物のOD(過剰摂取)や、幾多の犯罪を犯す人間になってしまうのだろう。それが映画の話ではなく、時代は違えど人が味わう境遇や差別、理不尽さには違いは無い。史実に基づく物語ではあるものの、現代社会にも当てはまる内容である。最初から、最後の最後まで重くのしかかる考えさせられる作品だ。裁判記録から製作された作品という事で、恐らく映画作品として面白くするならば「ミッドサマー」の様な狂い散らかした村人として描けば良いのだろうが、基本的には至って普通であり、その代わり主人公は幻覚の様な物をしょっちゅう見るため、こちらもどれが現実でどれが幻想なのか分からない状態のまま進んでいくシーンもやや多い。人間には精神疾患という病も存在する為、全てが主人公の妄想だったとも考えられなくもない。村人がイカれているのか、主人公がイカれているのか、どちらにせよ、このズーンとのしかかる重い映画は映画館で味わうべきだった。

コメントする (0件)
共感した! 0件)
クラ

5.0 環境、時代が違うと常識も変わるという普遍性を冷酷に描いた傑作

2025年10月9日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

B級ホラーにみえるタイトル、キャッチコピー、ポスタービジュアル、予告動画に騙されないで!

こういう映画が観たかった!

圧倒的な絶望感しかないラスト。

絶望の末に、わかりやすく牛の生皮を着せられるという畜生道に落ちる主人公に対し、観客を神の視点におき、赦せるか?と突きつける。

鑑賞後、どこかのブログに監督、脚本のヴェロニカ・フランツが今村昌平監督が好きって書いてて納得した。「楢山節考」も日本の村の因習の話。

時代が違うと常識も変わるという普遍性。そしてそのことがもたらす残酷さ。誰かが狂ってるとかじゃない。現代に通じる人間の危うさがそこにある。

コメントする 2件)
共感した! 3件)
minavo

0.5 空腹を奪う

2025年6月26日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館
ネタバレ! クリックして本文を読む
コメントする (0件)
共感した! 0件)
悠