劇場公開日 2025年5月9日

「春は、巣ごもり。おんらいんで買い入れたる鍋など焦がしたるは、いとわろし。」季節はこのまま Freddie3vさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5春は、巣ごもり。おんらいんで買い入れたる鍋など焦がしたるは、いとわろし。

2025年5月16日
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鑑賞方法:映画館

世界的な新型コロナウイルスのパンデミックに見舞われた2020年の春、フランスの片田舎にそれぞれのパートナーとともに閉じ籠った映画監督の兄(主人公兼語り手)と音楽コメンテーターの弟。この作品は彼ら、彼女らのロックダウン下の日常を描いた物語です。

私、実は一週間ほど前にパンデミックのエピセンターである中国武漢付近を舞台にしたロウ•イエ監督の『未完成の映画』を鑑賞し、その斬新な手法や画面上の緊迫感にガツンと食らわされて、パンデミックを扱った映画でこれ以上のものはなかなか出てこないのでは、と思っていたところでした。ところが、時期を未知のウイルスに対する啓蒙活動が多少なりとも進んだ2ヶ月ほど後に設定し、場所を経度にして110度あまり、距離にして約7,500キロあまり西のフランスの片田舎に移動させて、視点を変えてみると、こんなにも軽妙洒脱なコメディができるということで、映画の世界の奥の深さに感じ入った次第です。

とにもかくにも、この作品ではアサイヤス監督のセンスが冴え渡っています。笑えるところの笑い方が「にやり」とか「くすっ」といった感じになっていて、大人のための軽妙洒脱なコメディに仕上がっています(エスプリが効いてるとでも言うのかな)。映画監督の主人公ポール(ひょっとしたらアサイヤス監督が自身を戯画化したのかも)は未知のウイルスに対して非常に神経質になっていますが、このロックダウンの時期の意味に関しては「人生の幕間」のような言い方をしてけっこうポジティブに捉えています(普通の日常生活に戻ることを怖がったりもしてます)。で、このポールさん、プチブル的というか、スノッブというか、衒学趣味が強いというか、要するに「ああ、あれね」といった感じの面倒くさい人で、推薦図書に清少納言の「枕草子」やら紫式部の「源氏物語」やらを挙げるようなタイプの人です。源氏のほうは読んでなさそうでしたが、枕草子のほうは少なからずもその本質を捉えていたような気もしたので、このレビューのタイトルで少し遊ばさせていただきました。鍋の顛末は本篇でお確かめください(私、鍋が出てくるたびににやりとしてました)。

まあ、そんなこんなで人間たちはどことなく滑稽なんですが、物語の背景たる自然はパンデミックどこ吹く風で本当に美しかったです。

こういうのって、本当は人生これからっていう若い方々に後学のために見てほしいという気もするのですが、やはり、刺さるのはそれなりに人生経験を積んだ年配の方々なんでしょうかね。特にお薦めしたいのは男兄弟のいる中年以降の男性に対してです。大人になった後の兄弟関係というのはかなり面倒だと思いますが、その面倒くささや距離感の描き方が秀逸でした。

Freddie3v