劇場公開日 2024年10月19日

「何かを訴えようとしないスタンスから見えてくる眩しい世界」五香宮の猫 ターコイズさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5何かを訴えようとしないスタンスから見えてくる眩しい世界

2024年11月4日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

桜が咲き、夏が来てそして季節は巡り、また桜の季節がやってくる。大きな事件は起こらないしとりたてて聖人も悪人もいない。瀬戸内の田舎町の神社を巡る人と猫を自然体に、定点観測のように写していく。
ドキュメンタリー映画は作り手の主張が色濃いものもあるがこの作品はあえてそこを排除していてそこがドキュメンタリーの本質だと感じる。この場面をとりたいという欲を排除し誠実に寄り添いながらも、巡る季節、巡る年月が描かれ語られ、ありふれた暮らしにあるものが見えてくる。

ドラマや本などで凶悪犯の背景をみてやるせない感情を抱くことがある。ニュースで見聞きするなら抱くことがない感情。世界はそんなことに満ちていて、自分の行動範囲で見える事象には限りがある。この作品で、地域を、人々や猫たちを眺めることは手がかりをもらえたみたいな感触に近い。よく知ることで断罪も判断も容易じゃないと気づきニヒリスティックになる面もある。でも手がかりなくしては、というのも確かだから。

観察スタイルに乗っかり、それぞれがいろいろなものに思いを巡らせることができる作品だと思う。氏子たちが神社を守る姿、子どもたちの表情、牛窓のありふれた光景がやけに眩しくみえた。世界はそういうもので溢れていてほしいよね?

ターコイズ