「劇場でバレエをみたことがない人に、お薦め」RED SHOES レッド・シューズ 詠み人知らずさんの映画レビュー(感想・評価)
劇場でバレエをみたことがない人に、お薦め
バレエは、もともとオペラから分離したもので舞台芸術の一つ、劇場でプレゼンされるが、その代表はパリのオペラ座(ガルニエ)。
この映画では、一度はバレエに挫折したサマンサ(サムと呼ばれている)が、さまざまな経緯を経て、バレエへの情熱を取り戻して行く物語。ただ、ストーリーには難あり。
最初に、バレエの先輩であり、目標でもあった姉アニーを喪うところから出発するが、アニーが姉であったことを示すシーンはごくわずか。家族としてのふれあいは感じられない。
サムは、その後、自暴自棄に陥り、高校時代からの親友、イヴと連んで、万引きなどに手を染める。だけど、このイヴって、何をやっている人か、全く不明。家庭に恵まれていないことは分かるけど。総じて、登場人物たちの実像がはっきりしない。それに、商品管理がなされている現代風のショップで万引きしても、捕まることは目に見えている。寛大にも、彼女たちには社会奉仕が科されて、かつサムは母親に出身のバレエ学校に連れていかれる。そこで、皆に迷惑をかけぬ約束で、掃除を始める。
やがて思いがけない出来事があり、サムにチャンスが舞い込んできて、バレエ公演の主役としての訓練に入る。学校にもどったのも、恩師であるハーロウ先生(キャロリン・ボックの適演)の差金と知れる。しかし、主演を務めたサム役のジュリエット・ドハーティは実績があるとはいえ、顔も丸く、体型も相手役がリフトで困るくらい。よほど敵役のグレイシーの方が、顔つき、体型、性格もバレリーナそのもの。サムは、うまくゆくはずがない。6ヶ月も離れていたんだし、それをハーロウ先生が厳しく指導する。この指導は、バレエだけでなく、どこにでも通ずる内容だった。サムが自分を取り戻そうとして、イヴからのスマホに目もくれず、練習に打ち込むところはよかった。その後は、お決まりの出来事が、二つあって、大団円を迎えるというわけ。じゃあ一体、どこがこの映画の見どころなのか。
バレエの演技に尽きる。音楽もよかったけど。冒頭流れるモーツァルトのシンフォニー40番、それから復帰した後の最初の試練の時、流れるチャイコフスキーの6番「悲愴」。雰囲気にぴったり。
バレエでは、背景に、ラフマニノフのピアノ・コンチェルト3番が流れるところが、一番よかった。本当のバレエ・ダンサーが含まれているようで、そうした場面には惹かれるものがある。その分、演技やセリフは難しかったのだろう。ストーリーを歌で繋げるところは、議論が分かれるかも。
この頃見るバレエを題材にした映画の中には、バレエとモダンダンスひいてはストリートダンスや、ヒップホップとの交流を示すものも出てきている。そうした興味の連鎖に結びつくことができれば。