「姉のためのバレエは終わりを告げ、始まりの音が聴こえるラストになっていた」RED SHOES レッド・シューズ Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
姉のためのバレエは終わりを告げ、始まりの音が聴こえるラストになっていた
2024.3.20 字幕 TOHOシネマズ二条
2023年のオーストラリア映画(111分、G)
姉の喪失によってバレエを辞めたダンサーの復活を描くスポーツ&ヒューマンドラマ
監督はジェシー・エイハーン&ジョアンヌ・サミュエル
脚本はザカリー・レイナー&ジョン・バナス&ピーター・マクロード
原題は『The Red Shoes:Nest Step』で「赤い靴:次の一歩」という意味
劇中の演目として登場する作品も『Red Shoes』というタイトルで、大元は「アンデルセンの童話」となっている
物語の舞台は、オーストラリアのシドニー
ステージ直前に姉アニー(ダニエレ・クレメンス)からの電話を受けたサマンサ(ジュリエット・ドハーティ)は、その電話の最中に姉が事故に遭ったことを知ってしまう
それによって、急遽舞台を降板することになり、姉の死を受けて、バレエすらも辞めてしまった
それから2年後、サマンサは高校時代の悪友イヴ(ローレン・エスポジート)とつるむようになり、化粧品を万引きしては捕まるという自堕落な日々を過ごしていた
逮捕されたサマンサは200日間の社会奉仕を言い渡され、そこで母ジェニファー(ローラ・ニュー)は「かつて通っていたバレエ学校」を社会奉仕活動の場所に選んだ
彼女の仕事はその学校の清掃で、ドロップアウトした学校にもちゃんと通うという約束が課せられていた
バレエ学校には、かつての演劇のパートナー・ベン(ジュエル・バーク)がいて、彼の今のパートナーにはグレイシー(プリムローズ・カーン)が配されていた
彼女の演技は目を見張るものがあったが、練習中に怪我をしてしまい、エリス役を降りざるを得なくなる
そこでハーロウ先生(キャロリン・ボック)は、控えのペイジ(ミレッタ・アンドリアナコス)を指名するものの、彼女はそれを拒んでしまう
ハーロウはサマンサに声をかけ「踊る気があるのなら、荷物を持って明日の7時に来なさい」と告げた
映画は、ペイジに演技を教える体で参加することになるのだが、それらはハーロウ先生の思惑通りということになっていた
彼女の奉仕活動先を指定したのも先生で、彼女の才能をこのまま腐らせるのは忍びないと感じていた
バレエに専念するようになってからは、親友イヴとの距離ができてしまい、バレエに没頭するあまり、イヴの苦悩を無視してしまう
それによって関係が拗れてしまうのだが、それすらも通過儀礼の一つになっていたように思えた
映画はガチのトップダンサーを選出し、彼女たちに演技をさせているのだが、バレエシーンをプロが演じているので、それを見るだけでも価値がある
大抵の映画では、ラストの演目などはきちんと描かれずに濁されることが多いのだが、本作はひとつのシークエンスを邪魔することなくちゃんと見せてくれる
これだけでチケット代の元が取れるというもので、サマンサを見るイヴと友人のフレディ(ニコラス・アンドリアナコス)も表情だけでセリフはない
この演出は『グレイテスト・ショーマン』の「Never Enough」のシーンに通じるものがあって、バレエに対する敬意というものが感じられる
普段バレエ鑑賞をしない層としても、スポ根的な物語になっているので入りやすく、多くの人に観てほしい題材であると思えた
いずれにせよ、そうなってほしいというところにうまく落ち着く物語になっていて、悪人がいない優しい世界になっていた
途中降板になってしまうグレイシーも最後の挨拶では中央に招くなど、スポーツマンシップ的な演者に対する敬意というものも見えてくる
根っからの悪人ではないサマンサが、姉の亡霊から解放される物語であるが、彼女のダメージほどではなくても、当時を知る人々のショックも大きかった
問題はその後に何を為すかということであり、悲嘆に暮れても人生の貴重な時間を無駄にするだけだと思う
映画は、そのメッセージを真正面からぶつける内容で、それを乗り越えられる人としてサマンサを描いているが、踊りたいという衝動は誰にも止められないし、バレエのレッスンなどでアドバイスを入れるハーロウ先生の言葉もガチの人なので説得力がある
現役のダンサーでも学べるところが多いので、壁にぶつかりそうになっている人ならば、鑑賞の価値があるのではないだろうか