「”箱”から世界を覗くのか、それとも”箱”から出ていくのか」箱男 神社エールさんの映画レビュー(感想・評価)
”箱”から世界を覗くのか、それとも”箱”から出ていくのか
石井岳龍監督作品は初見。
原作も未読ながら、小島秀夫監督の『メタルギア』シリーズに多大な影響を与えたことは知っている程度。
何度か原作を読もう読もうとは思っていたものの、手が伸びずにいた時に映画版が公開されることを知りようやく観賞。
観終わって思ったのが、哲学的でありながらエンタメでもあり、野生的でもありながら蠱惑的でもあり、相対的な関係の様々なものが絶妙なバランスで組まれていながら、味わいも深く折を見て観返したらその時々感じることが変わりそうな良い作品だったってこと。
ストーリーとしてはそこまで難しい話では無かった気がするけれど、”箱男”として世の中を隙間から覗き見ることが(覗き穴が横長なのも相まって)今の時代だと”スマホ越しにSNSで世界を見たつもり”になっている現代人と重なるようにも感じられて、冒頭から”ただのおかしいやつ”とは思えなかった。
それが終盤、箱から脱した”わたし”が生きもがく中で箱から覗く無数の眼、最後には箱の穴が”スクリーン”に変わり、作品を見てる人々が映される様は(劇場版エヴァンゲリオンで使われた手法とは言え)原作と劇場作品と言うメディアの違いがあるのに、元からこの構成だったのでは…?と思わせるほど腑に落ちる感じがしたし、劇場で観ておけば良かった…と後悔するくらい良い演出だった。
2024年公開なのにまるで90年代のような(もちろん街を歩く人々の服装や光の反射などの撮影は現代を感じるものの)ルックが素晴らしく、永瀬正敏さんの”わたし”を始め、各俳優さんの演技も相まって日本アカデミー賞に何らかの賞で受賞しそうなクオリティだったものの、受賞はおろかノミネートさえされていないのが不思議でならない。
構成の多数を占める”箱男”が箱に籠る静と相対する少ないアクションシーンの動のバランスも素晴らしく、個人的には”箱男”同士のアクションシーンは奇妙だけど面白い、動けてないのに動けている不思議な印象になった。
小島秀夫監督の『メタルギア』シリーズを知っていると、ダンボール箱の形状やカブキのフェイスペイント、街での偽装効果や奇妙な敵とのバトル、美女の誘惑やロマンス…などなどダンボールのモチーフ以外にも多大な影響を受けていたのを改めて実感すると共に、原作ではどういう描かれ方をしているのか、さらなるモチーフがあるのではないかと原作にも興味が湧いてきた。