「時代のせいか、擦りきれた感受性のせいか」箱男 野々ノノノさんの映画レビュー(感想・評価)
時代のせいか、擦りきれた感受性のせいか
旬報シネマのレビューページでやたら評価が高かったので見てみたが、どうもテーマも結末も使い古されたものであるように思えた。あるいは、それは僕の感受性のせいかもしれないし、単純な好き嫌いかもしれない。
僕は「砂の女」を読んだことがあるくらいで、安部公房の文学的世界にそこまで感銘を受けた人間じゃなかった。それでも、この映画でその世界の重厚さや倒錯的な世界への陶酔を感じたし、こういう映画にかなり影響を受ける人もいるのだろうとも思える出来だった。視点や見せ方の工夫も面白く、シリアスな笑いや、時代を現代とない交ぜにして飽きさせず、また、観客と映画の世界をシンクロさせる手法もドキッとする人もいただろう。
でも、個人的にはやはり昭和に書かれた文豪的物語という感じが拭えなかった。面白くないわけではない。ただ、外界から完全に切断された個人というテーマなり設定はやはり古くさい感じがして、この世界があまりにも重厚だからこその匂いが消えなかった。映画を見ながら、ずっといまいち乗りきれなかった。世界観、秘密めいた都合の良い女、破滅的願望……。わかる。いろんな意味ですごくわかるし、これが昭和や平成の早い時代に映像化されていたらまた見え方も変わっていたかもしれない。でも、この現代ではやはり「やりたいことはわかるけど」というか、これを真っ正面から体感できる若者はいるのだろうか? 観客も年配の方が多かった。小説という文字だけの世界なら時代も超越しのめり込むことが出来るかもしれないが、映像が乗ってしまうとどうもなぁ……というどこかずっと白けてしまっていた。まぁ、僕の擦りきれた感受性の問題なのかもしれないけど。