「とりあえず、わたしの視界から見えたものは、このようなものだった」箱男 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
とりあえず、わたしの視界から見えたものは、このようなものだった
2024.8.29 MOVIX京都
2024年の日本映画(120分、PG12)
原作は安部公房の同名小説
箱男に魅了された男たちを描く社会派シュールコメディ
監督は石井岳龍
脚本はいながききよたか&石井岳龍
物語の舞台は、日本のとある町(ロケ地は群馬県高崎市)
カメラマンの「わたし(永瀬正敏)」は、ある日街角で出会った「箱男」に魅了されるようになっていた
箱男が脱ぎ捨てた箱に入ってみたわたしは、そこから見える世界に魅了され、心が躍るのを感じていた
わたしは街角に佇んで社会を覗き込み、自分の存在が消えていることに快感を覚えていく
そんな彼を付け狙うワッペン乞食(渋川清彦)などもいたが、いつしか自分の写真を撮り始める謎の存在に付け回されるようになった
男(ニセ医者、演:浅野忠信)は軍医(佐藤浩市)の望みを叶えるために箱男に近づいていたが、箱男のことを知るたびに、その魅力に取り憑かれていった
映画は、27年前に頓挫した企画が今になって再始動したと言う内容で、当初の企画通りに永瀬正敏が演じることになった
箱男とは何者かを追っていく中で、成り切ろうとしたものの、その手帳が改竄されたものと知って絶望したりもする
謎の女(白本彩奈)は軍医の女のようで、ニセ医者の女にも思え、さらにわたしを翻弄するキャラクターとなっている
彼女が全裸になるシーンでは全てが見えているようで見えていないと言う感じになっていて、その見えていない部分は脳内で補完された妄想と同じ類のようにも思えてくる
ラストでは、箱男の覗いている窓はスクリーンと同じで、「箱男は、すなわち、あなただ」という文言が引用されるが、これは蛇足以外の何者でもない
幾度となく箱男の目元がクローズアップされるたびに「ああ、そう言うことなんだろうなあ」と思っていたので、それをはっきりと言ってしまうんだ、と言う感覚になってしまった
箱男の窓がクローズアップされて、そのままスクリーンと同化すると言うだけでも意味は通じると思うのだが、わかりやすさを優先した、と言うことなのかもしれない
いずれにせよ、箱男から見えるものは光であり、それ以外は隠したい闇ということになる
見たいものを見て、見たくないものを無視し、それらを妄想して補完していくというのは、記憶改変のメカニズムに似ているように思えた
それは、箱男とは何者か?という疑問を持ったと同時に、自分の中で想像するものがあって、それが行動(真似)によって乖離を感じ、さらに妄想を膨らませていくというジレンマに陥っていく
そういった積み重ねの結果として、対象に向き合う自分は何者なのかを突きつけられているように感じてくる
箱男からしか見えないものは、その人にしか見えないもので、手帳は自分の言葉で紡ぐしかない
なので、真に価値のあるものとは、ありのままを見て、感じたありのままを自分の言葉で紡ぐことなのかな、と感じた