劇場公開日 2025年3月21日

「お客さんを選ぶタイプかも」BAUS 映画から船出した映画館 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5お客さんを選ぶタイプかも

2025年3月21日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

まず物語要素のアンバランスさに戸惑った。映画館を擬人化して例えるならこんな感じ。ちょっと知っていた故・バウス君を偲ぶ会があると聞いて見に行ったら、冒頭から祖父イノカン氏についての思い出が延々と続き、会の半ばを過ぎる頃に父MEG氏の話に移ってからもそれなりのボリュームのエピソードが語られる。ようやくバウス君の番かと思ったら、最期の日に仲間たちが集まってにぎやかに見送ったよ、と報告があってお開き、解散。体感の時間配分では、イノカン6割、MEG3割、バウス1割だろうか。

タイトルに「BAUS」を冠しているものの、実はバウスシアターが主題ではない。吉祥寺初の映画館・井の頭会館で働き始め後に社長となる本田實男(さねお)氏を中心に、ムサシノ映画劇場、バウスシアターと形を変えた箱を通じて約90年にわたり当地の映画文化を支えた“家族の物語”に重きが置かれている。

インディペンデントの精神を具現化した作品とも言える。商業映画のようなウェルメイドと大衆受けを狙わず、低予算を逆手に取った画作りで引っかかりを生む。井の頭会館の建物前面がハリボテであることを敢えて見せたり、おでん屋台のシーンで周囲を真っ暗にして舞台劇のように演出したりしているのもそうした意図だろう。予算が限られているので、シーンによってはセットや背景をリアルに作り込む代わりに、チープさや作り物っぽさが“味”になるよう工夫するのもインディーズならでは。

バウスシアターに足繁く通ったようなシネフィルなら、さまざまな要素に愉しみを見出せるのだろう。町の小さな劇場が地元の人々と歴史を生きる、映画に夢と未来を見た少年が大人になり回想する、といった要素が「ニュー・シネマ・パラダイス」に類似するが、あちらのようなわかりやすい感動作を期待すると当てが外れる。一見さんお断りというほど敷居が高いわけではないものの、とっちらかった感じさえ大らかに愛せるのでなければ、心から楽しむのは難しそうだ。

私自身、バウスシアターを数回訪れちょっと知っていた程度なので、バウスの誕生や最盛期や閉館の事情などをもっと描いてほしかったなと物足りない思いも。名称の由来は気になっていたので、ヨットの船首のバウ(bow)と船尾のスターン(stern)を合わせた「バウスターン(bow stern)」をもじってバウス・タウン(Baus Town)」になり、そこからバウスシアターが生まれたとの説明があったのはよかった。

高森 郁哉