「荒唐無稽で無敵ないつものステイサム!だが、それでいい!!」ビーキーパー 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)
荒唐無稽で無敵ないつものステイサム!だが、それでいい!!
ジェイソン・ステイサム主演のアクション。監督に『トレーニング・デイ』『スーサイド・スクワッド』のデヴィッド・エアー、脚本に『リベリオン』のカート・ウィマー。
かつて国家を陰から守る秘密組織“ビーキーパー”に所属していた養蜂家の主人公アダム・クレイ。恩人である老婦人がフィッシング詐欺によって自殺に追い込まれた事を皮切りに、復讐の炎を滾らせ悪を裁く!やがて、事態はFBIや傭兵部隊、シークレット・サービスをも巻き込んだ国家規模の大事件へと発展していく。
主演がジェイソン・ステイサムとだけあって、彼らしい荒唐無稽なアクション大作に仕上がっている。『MEG』シリーズで古代の巨大ザメ、メガロドンとすら対決した彼にとっては、たとえ重武装していようと生身の人間である傭兵やシークレット・サービスをほぼステゴロで蹴散らすなど容易い事。不思議と「だって、ステイサムだよ?」で納得してしまえるから面白い。
タイトルにある通り、主人公アダム・クレイは表向きは養蜂家として過ごしており、蜂の習性に精通している為、スズメバチの巣を駆除したりもする。しかし、本作において主人公のそうした立場は、設定以上のものを特に示さない(笑)
重要なのは、作中で示される「蜂はその習性により、時に優秀な子孫を残せない女王蜂を始末し、群れのトップを挿げ替える」という部分だ。一つの詐欺事件から始まった復讐譚は、最終的に大統領の息子の抹殺にまで発展していく。フィッシング詐欺グループの大元が大統領の息子である事、大統領もまた(本人は知らずとも)息子が詐欺によって稼いだ金によって当選したという立場であり、そうした悪しき女王蜂と子孫を抹殺して、国家としての“群れ”と“正義”を守る為に戦うという構図になるからだ。
書いていて何とも荒唐無稽な話だと思うが、テンポ良く進む脚本と矢継ぎ早に展開されるアクションによって、こちらのツッコむ気持ちが自然と削がれてゆくから見事。
散々事態を大きくした挙句、ラストはヴェローナに見逃されて、用意していたダイビング装備に身を包んで海に消えていくというアッサリとした終わり方も個人的に好みだった。
詐欺グループのトップであり、大統領の息子デレク・ダンフォースを演じたジョシュ・ハッチャーソンの絶妙なドラ息子っぷりが見事。義父である元CIA長官のウォレスに散々守ってもらいつつ、事態の深刻さをクライマックスまでイマイチ把握していないお気楽な様子。ラストで取り乱してFBIの副長官を射殺してしまい、クレイにアッサリヘッドショットをかまされて死亡するという堂に入った小物っぷりに愛しささえ感じさせた。
女王蜂という蜂に因んだ設定を活かす為とはいえ、フィクションの世界ではアメリカが“女性大統領”というトップを迎えているのは面白い。とはいえ、当選の裏にある汚れた金を巡る陰謀等は「一体、誰がモデルなのかな?」と勘繰りたくなってしまうが(笑)
105分という比較的コンパクトな尺で、テンポ良く景気の良いアクションが展開されるので、全体を通して退屈する事はない。ただ、出来れば主人公の養蜂家という設定をもう少し活かして欲しかったのは間違いない。作中一度くらいは、蜂を使役して悪人を裁くという描写があっても良かったように思う。蜂の習性を理解しているからこそ、自分の納屋に侵入してきたギャング達をスズメバチに襲わせるよう罠を仕掛けるとか。
また、クレイがエロイーズの仇を討つ動機が「優しくされたから」だけというのは、いくら何でも動機として弱いと思った。
せっかく、冒頭で彼女に夕食に誘われたのだから、食事を共にするシーンに繋げても良かったように思う。そうする事で、自然と「何故、俺に優しくしてくれるのか?」という問いに対する「亡くなった息子に似ているから」という答えにも、娘はFBIに所属しており、「危険な仕事だから、娘には見せないけど内心とても心配している」といった親心を垣間見せる事だって出来たはずだ。そして、そうしたエロイーズの抱える思いに触れたからこそ、“善良な市民であり良き母親である彼女を自殺に追い込んだ連中を始末する”というクレイの動機が強化されると思うのだ。
弱いと言えば、“ビーキーパー”という組織についてもだ。ウォレスによる説明台詞と昔懐かしい箱型コンピュータの並ぶ怪しげな部屋という描写以外にイマイチ組織の全容が掴めず、クレイを襲った後任のアニセットがピーキーなキャラクターだった事もあって「何かよく分からないクレイジーな集団」くらいにしか見えなかったのは少々残念。
アメリカでは去年の1月に公開済みの本作。日本では1月3日の公開という事もあって、1年遅れで新年早々ステイサムが悪人をバッタバッタと殴る&殺す様を観られるのは、ポップコーン片手に新年1発目の劇場鑑賞作として気軽に楽しむには十分な作品だ。
デヴィッド・エアー監督とステイサムは次回作でもタッグを組む様子で、今度のステイサムは現場作業員と、またしても一癖ありそうなキャラクターなので、日本での公開を楽しみにしたい。