「チンピラヤクザのような反乱軍も勝てば「官軍」」ソウルの春 abukumさんの映画レビュー(感想・評価)
チンピラヤクザのような反乱軍も勝てば「官軍」
パク・チョンヒ大統領の暗殺で始まるドラマは、主役2人の迫真の演技を軸にグイグイと観客を引っ張って、結末まで飽きさせない見事な展開でした。韓国映画の底力を感じましたし、戦時下(朝鮮戦争は休戦中)で徴兵制国家ということで、その真実味も日本映画では出せない味があります。
とくにクーデター側の人間模様が凄まじい。チンピラでヤクザのような輩もいる集団ですが、皆、チョン・ドファンこそがパクの時代「維新体制」を引き継ぐと信じている。ヤクザの論理のようなものが独裁時代の軍部で培われていて、ハナ会はその徒花であることがわかります。
ここが粛軍側の強みとして生きてくるのが恐ろしいし、組織というもの怖さをよく表現しています。対スパイ・軍監査を担当する保安司令部を握っていたのも大きいし、首都警備司令部のトップが士官学校出身でなかったことも伏線になっています。
我が国ではあり得ないという感想を散見します。しかし、日本は当時戦後とはいえ、軍が国を引っ張っていた韓国は「戦中」、なおかつ元々の独裁者パク・チョンヒは日本陸軍の満州士官学校出身、日本軍部に育てられた筋金入りの軍人が、太平洋戦争後に韓国に君臨、彼が薫陶した士官学校の弟子たちが、かつての関東軍のような恐ろしい振る舞いをしています。戦前の日本と「血がつながっている」のだなという強い実感。この軍部の生業は日本人にもよく分かる感覚でしょう。
まさに、「ハナ会」メンバーが悪事を話し合うチョン・ドゥグァン宅の座敷シーンは、かつての日本でよく見られた風景を想起させます(仁義なき戦いのよう!)。アメリカ映画や欧州映画では(中国映画でも)、とても出せない東アジア独特の雰囲気。
戦前の日本帝国陸軍「桜会」の謀議や、近くでは「安◯派」の蓄財会合もこんな雰囲気だったのではないでしょうか?
ところで、原題は「12.12.決行の日」。正に12日の10時間勝負。その後の民主化運動「春」の盛り上がりと挫折は描かれないけれど、どうなるかは示唆されます。
歴史は繰り返すと言いますが、同じパターンで繰り返すのではなく、また違う顔で現れてくる。そんな組織悪が日本でも今後ないとは言えません。映画ではにおわす程度でしたが、チョンらの不正蓄財はすでに、パク時代から始まっていたようで、権力奪取とともに本格化します。ミャンマーの軍政にも通じる金まみれの軍部ですが、関東軍もやはり金の亡者でした。
政治組織の腐敗は主に金権だけですが、軍が肥大化して腐敗したとき人がたくさん死にます。
何かが引き金になって、その恐ろしい血脈が顕わになるのだと思います。