「非常によく考えられている映画。」それいけ!アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン はるちさんの映画レビュー(感想・評価)
非常によく考えられている映画。
タイトルの通りです。子供向け映画だしアンパンマンについてはよく知らないで、子供に付き添って視聴しましたが、そのあまりのストーリーの緻密さに驚かされました。
ストーリーについては割愛しますが、要所要所で子供たちにお手本にしてほしいマインドが散見されましたよ。
失敗続きで落ち込むるるんに対して、自分だって何度も失敗してきたぞ、というセリフのあとに「まいったか!」と堂々胸を張るバイキンマン。「成果が実らなくても努力をしてきたことはそれだけで立派である」そんな普遍的な価値観が何気なく伝わる粋なシーンでした。
あと、実は仲間を見殺しにして逃げてきた...そう自分の落ち度を吐露するるるんの背中を物言わず押して、今やるべきことをやることが最優先と思い知らせるバイキンマンはまごうことなき師匠です。だって下手な擁護をする必要はないんです。自分の弱さを思い知ることは成長に不可欠なんですから。なんでも綺麗事で取り繕って穏和な世界をやっているのがアンパンマンの長年のイメージだったので(失礼)、こんなに含蓄のある映画かと驚かされました。また、るるんが「負けたらどうしよう。仲間もバイキンマンもアンパンマンも倒れてしまって、最後には自分一人だけになってしまったらどうしよう」と怯えるシーンでは、アンパンマンが「それでも君の心の中に仲間がいるよ」と言葉少なく諭すので思わず涙腺が緩みました。いつもいつでも上手くいくなんてことはなく、最悪の場合、そうなるでしょう。どんなに現実で希望が持てなくても、心の中に希望を持つことはできる。夜と霧というナチスの収容所について書かれた本では、死を目前にしても想像力を持つものは精神的自由を持ち得て凄惨な生活の中でも心豊かに暮らしていた事実が記録されていました。人は実質的な存在だけを頼りに暮らしているのではなく、想像力を持つ心と共にあります。それさえ忘れなければ、どんな辛い状況でも、私たちは心の中でアンパンマンやバイキンマンと向かい合い語らうことができるのです。
終盤、自分一人だけまだ戦える状況に置かれた絶体絶命のるるん。臆病な気持ちが優って一歩が踏み出せないでいると、小象に変身させられた瀕死の仲間たちがなおも自分を庇って立ち上がるではありませんか。今までは守られるだけの小さい愛らしい存在だった自分。今度は立場が逆転して、アンパンマンたちが自分よりか弱い存在となります。この時初めてるるんは一人で立ち向かうという闘志を燃やします。どんな人間も、生まれた時は小さく守られるべき存在であり、大人たちはいつでも自分を守ってくれる頼れる存在でした。しかし、人間というのは必ず老いるもの。子供たちは、いつしか必ず成長し今まで守ってくれていた家族や仲間を守る側となるのです。それが支え合い共に暮らすということです。思いやりは循環し続けるのです。昨今、政治については年寄りと若者の間で分断が起きています。今のままでは日本の未来は危ういでしょう。どうかアンパンマンの世界のように皆が思いやりあって正しく支え合って暮らしてはくれないか。そう願って止みません。
挑戦とか戦いとかそれだけでない、強かな精神論の視点を持つ良い映画でした。