「写真の被写体の表情から、ルーカスの生き様が見えてくるのは残酷だと思う」ゴッドランド GODLAND Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
写真の被写体の表情から、ルーカスの生き様が見えてくるのは残酷だと思う
2024.4.8 字幕 京都シネマ
2022年のデンマーク&アイスランド&フランス&スウェーデン合作の映画(143分、G)
デンマーク領のアイスランドにて、布教活動を行う牧師を描いたヒューマンドラマ
監督&脚本はフリーヌル・パルソマン
原題は『Vanskabte Land』で、直訳すると「変形した土地」という意味
物語の舞台は、1900年代前半のデンマーク領アイスランド王国
司祭のヴィンセント(ワーゲ・サンド)にアイスランドでの布教活動を言い渡された牧師のルーカス(エリオット・クロセット・ホープ)は、通訳(ヒルマン・グズヨウンソン)、現地ガイドのラグナル(イングバール・E・シーグルズソン)とともに海を渡ることになった
目的地に直接船をつけるのではなく、道中の写真を撮りながら移動する一行だったが、大雨で増水した川を渡ろうとした際に、通訳が溺れて死んでしまう
言葉が通じず、思った以上に過酷な道のりに、ルーカスはとうとう倒れ込んでしまった
同行したラグナルたちは彼を目的地に連れて行き、農夫のカール(ヤコブ・ローマン)の家で面倒を見てもらうことになった
物語は、目的地に着くまでにかなりの時間を要し、そこからはデンマークから移住してきたカール一家との関係性が紡がれていく
ようやくここで会話が成り立つのだが、それによって、会話できない人との溝というものがさらに深くなってくる
ラグナルはルーカルをここまで突き動かす宗教に意味を感じ、「どうしたら聖職者になれるか」と訊くものの、ルーカスはまともに答えない
彼の本来の目的である布教を忘れ、教会さえ建てば良いと思っている
その作業に尽力し、自分を助けてくれた恩義に報いることなく、自分は聖職者であり、あなたたちとは違うのだと言わんばかりに、距離を置き始めるのである
映画は、最後に負の連鎖が描かれまくるのだが、これがルーカスの旅の集大成というところが恐ろしい
彼の旅はキリスト教の布教活動だったはずなのに、禁忌と呼ばれるものを侵し続け、その身を業火に焼き尽くす
残されたのは、彼がほとんど関わらなかった教会と、方々で撮られた写真だけで、映画自体が「アイスランドで撮られた最初の7枚の写真」から着想を得ているところが面白い
後の世では布教活動に赴き、教会を完成させた殉教者の扱いであるものの、その実態は聖職者とはかけ離れたものだった、というふうに結んでいるのである
いずれにせよ、神はルーカスに多大な試練を与えてきたのだが、悉く裏切っているように見えてくる
自然=神という構図の中で、一人前の聖職者になるには「内なる会話だけでは不十分」であり、言葉が通じない世界に遣わされている意味を理解していないとこうなる、というものだろう
映画は遺された7枚の写真から着想を得たものになるが、その写真の表情から、ルーカスと彼らの距離が見えてくるのだろう
そう言った意味において、写真というものは真実を写すのかな、と思った