「永遠なんてどこにもないのかもしれない」劇場版 うたの☆プリンスさまっ♪ TABOO NIGHT XXXX pokkaさんの映画レビュー(感想・評価)
永遠なんてどこにもないのかもしれない
※3週目の影ナレ、豪華版パンフレットネタバレを含みます。
公開2週目までで20回近く観に行きました。ムビチケも大量に手元にありますし、それがなくなったとしても通うのだと思います。でもキングダムやスタツアのように、行きたくてしょうがないから行くのではありません。この映画がうたプリというジャンルを終わらせるきっかけになってほしくないからです。QUARTET NIGHTという最高のアイドルに、その責任を負わせたくないからです。
2025年のライブとは思えないダサい衣装も一貫性のないストーリー仕立ての演出もこの際すべて目をつぶります。その上でどうしても看過できないのは、この映画が劇場版の前2作と異なり、リアルなライブとしての再現度が低すぎる点です。
今までの劇場版はうたプリらしいファンタジー的な演出をふんだんに盛り込みながら、地に足のついたリアルさのある演出が実に見事に融合されていました。現実では決してできない特攻をバンバン入れたり空を飛んだりする演出を入れながらも、曲によってヘッドセットとハンドヘルドマイクを使い分けたりライブ中にヘアアレンジを盛り込んできたりと、現実世界のライブとして「ある」と思わせる工夫が随所に感じられました。それを余すことなく捉えていたカメラワークの巧みさも見事だったと思います。
でも、本作はリアルなライブ感を感じません。作中内でライブをやっているアニメを見せられているというのが一番近い感覚でしょうか。
もっともそれを感じるのがアンコールです。嶺二が藍を連れてトロッコに乗るのは、嶺二のアドリブだそうですが、そのアドリブは毎回毎回同じように繰り返されます。アドリブは1回きりだから「アドリブ」として機能するものなのに、週が変わってもその箇所が変更されることはありません(※注:これを書いているのは3週目です。今後変わる未来があるんでしょうか…)。わざとらしく盛り込まれた演出がかえってライブとしてのリアリティを損なっており、毎回興醒めします。
また、3週目の影ナレではまさにその嶺二のアドリブがメンバーから槍玉に上げられますが、ここでも「なぜ今更?」という疑問が浮かびます。1週目、2週目と同じことが繰り返されているのに、思い出したように今更メンバーが嶺二のアドリブに文句を言うのもまた不自然極まりないです。
ライブのリアリティのなさは舞台装置にも感じます。デュエット曲で舞台の真ん中に無造作に置かれた大量のでかいブロックは一体なんですか?なぜあそこに置いてあるのかも意味不明だし、そもそもデュエット曲においてあのブロックが必要な理由もわかりません。アリーナ席の視線を完全に遮るあの箱を誰が喜ぶんでしょうか。
極め付けにカメラワークが全然良くない。アイドルに寄るべきところで足元を映し、停止させるべきところでぐるぐる回し、かと思えば単調なワンパターンの四分割がしょっちゅう挟まれます。
オフマイクでの会話は今作にも入っていますが、これも以前の劇場版でウケたことに味をしめたのだろうなと感じます。「こういうの好きでしょ」という制作側の狡い意図が随所に透けているようです。
もっとも上記の演出も、何度も何度も繰り返し見ることで若干慣れた部分もあります。でもあれだけ楽しみにしていた映画の悪いところに目をつぶり、違和感をやりすごしてなんとか映画館に通う未来があるなんて思いもしませんでした。
今回、パンフレットや雑誌に掲載された総監督のインタビューを読みましたが、とにかく自分が信じる「かっこいいライブ」を、QUARTET NIGHTというアイドルを使ってやったのだなという印象を受けました。これがかっこいいライブかどうかはさておき、私は「総監督の考えるかっこいいライブ」が見たかったわけではありません。私が見たかったのは、QUARTET NIGHTという最高のアイドルを、あの4人を一番輝かせるライブでした。だからこそ、誰よりも彼らに寄り添って、彼らにふさわしい演出をもっともっと心を砕いて本気で考えてほしかった。
SNSでこの映画に対する批判の声を聞くことはもうほとんどありません。皆が満足したからでしょうか? 2週目以降の演出ですべてを納得したからでしょうか? 違います。この映画についてネガティブな意見を述べることは、このライブの演出に携わったであろう「QUARTET NIGHT」というアイドルを批判していると捉えられるからです。だから皆、思うことがあっても口をつぐみます。批判の聞こえない構造の中で、製作陣が「やっぱりこれでよかったんだ」と思っているのであれば、それは本当に恐ろしいことです。
自分も含め、熱心なファンは思うことがあってもSNSでは沈黙し、何度も繰り返し劇場に足を運ぶでしょう。もしかしたらスタツアの興収も超えるのかもしれません。でも、そういう盲目的とも言える熱心なファンに甘えたコンテンツを作り続け、内向きになっていくジャンルの行き着く先は一体どこなのでしょうか。
永遠なんてないとわかっています。でも、もっともっと未来にあるものだと思っていた終わりは、もしかしたら案外近くまで来ているのかもしれないと、この映画を見て初めて思いました。
そんな予感が的外れな杞憂であり、これからもうたプリというジャンルが末長く続いていくことを、一ファンとして切に祈っています。
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