「辻褄が合わんし、わけわからん」無名 バラージさんの映画レビュー(感想・評価)
辻褄が合わんし、わけわからん
うーん、期待外れだったかなあ。監督のチェン・アルって『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・上海』の人だったんだな。あっちも同じ時代を舞台としたギャング映画と見せかけて戦争映画だったが、問題点もほとんど同じ。話が見えづらい上に妙に淡々とした作風で、時系列や舞台が錯綜しててあっちこっちにやたらと話が飛ぶため今一つストーリーがわかりにくい。そもそも各登場人物の立ち位置がわかりづらく把握しにくい。スパイ映画お決まりの二重スパイもたくさん出てくるが、それ以前に表の顔の描写がわかりにくいから、実は……という展開も混乱が増すばかり。個々のエピソードがぶつ切りで、それぞれの関連性が見えてこないからストーリーの流れも悪い。本筋と関係ない余計なエピソードなんじゃないかと思えるものもいくつかある。また、それぞれのシーンの雰囲気優先で、お話の辻褄が合わないところも多く、どういうことなの?と考えても理解できないところも多い。特に最後のほうの実は味方だったトニー・レオンとワン・イーボーの本気の殺し合いは本当に意味がわからん。途中まではワン・イーボーといっしょにいる第三者を欺くためということで一応説明がつくんだが、そいつらがみんな死んだ後まで殺し合うのは完全に意味不明だ。これは脚本が良くないのかもしれない……と思ったら脚本もチェン・アルだった。
それでも俳優たちは良く、それでなんとか観れる映画にはなっている。出番は少ないながらもジョウ・シュン、ジャン・シューイン、チャン・ジンイーといったきれいどころの女優たちは眼福だし、森博之という中国で活動してるらしい日本人俳優がなかなかの好演でした。相変わらずの勘違い日本描写もあるが、これもまあ許容範囲だろう。
ちなみに森さん演じる日本スパイ機関長が当時の世界情勢をいちいち丁寧に説明してくれるシーンが多いんだが、それでもこの時代の予備知識がないと相当にわかりにくいと思う。アート映画なら多少わかりにくくても映画の雰囲気で問題なく楽しめるが、明らかに娯楽映画だからなあ。それでいて純粋に楽しむ映画というわけでもなく、史劇映画とか社会派映画でもないという、何を狙ってるのかよくわからない映画だった。同じテーマの『サタデー・フィクション』や『崖上のスパイ』に比べると数段落ちる出来と言わざるを得ない。トニーとジョウ・シュンが共演したスパイ・サスペンス映画なら国共内戦期を舞台とした『サイレント・ウォー』のほうが面白かった。